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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*3*-3

恐怖というものは一度意識し始めると、心臓は酸素を欲し、周りの空気は重くのしかかり、いても立ってもいられなくなってしまう。その上、今になってやっと目が慣れだし、見えなくても良いものまで見えてしまいそうで怖い。それに…
「人の気配、感じたりして…」
自分だけ怖いのは嫌なので、好美も巻き込む。
すると
「人ならまだマシだよ…。もし『人以外』の気配だったら…」
と声を震わせ、あたしの腕を揺すった。確かに『人以外』だったら厄介極まりない。
怖いと思い始めてから、後ろに気配を感じてならなかった。
あたしは、階段のその先にある三階の廊下を見つめた。今すぐ引き返したいけれど、絶対に行かなければいけない。
「好美、振り向くよ…。もう、ビビってらんない」
「えっ…やだ、無理!」
「確かめるよ、…3…2…1」


あたしは勢い良く振り返った。


…そこにはピッタリとくっついた女の子が二人。
「鏡……」
好美は安心したような気の抜けた声を発した。
そういえばこの学校の踊り場には、登ってくる時と降りてくる時に全身が映るほどの大きな全身鏡が備えられている。
あたしたちは下を向いていたので、忘れていたらしい。
「くっだらなぁ…」
自然と出た言葉がこれだった。
好美が隣でプッと吹き出した。吊られてあたしも笑いが込み上げてきて、声を押し殺しているのが大変なほどだった。
鏡の中のあたしたちもケタケタ笑っている。
が、笑えない緊急事態発生。


―足…!?


鏡に映った階段の一番上の廊下と繋がる部分を人が通っていった。鏡の縁ギリギリで映る廊下。そこをスー…と横断していく足。暗くてハッキリとは見えなかったけれど、あれは間違いなく人の足だった。
「…………っ!!」
人間、本気で驚いた時は声なんて出ないもんだ。息をするのも忘れ、これでもかと言うほど見開き、鏡の一点から目が離せなかった。


暫く硬直していたあたしは、自分は生きてるし動ける生命体だということをやっと思い出した。
隣を見ると、どうやら好美は自分がどのような生き物かを忘れているらしい。
目は真ん丸で、口元は引きつり、鏡の上部を見つめ固まっていた。
「好美…?」
「…あ、おと…わ…」
好美の眼球はキョロキョロと動いて、やっとあたしの瞳を捕える。
「…今の何?」
震える声であたしに問う。あたしはフルフルと首を振った。
「見回りの、先生、かな?」
それなら、それに越したことはない。だけど、不自然過ぎる。
「見回りなら懐中電灯持ってるから、明るいでしょ。さっきは暗かったよ…」
意外に冷静な自分自身に驚くと同時に、それにより結び付く結果に自分で言って怯える。嗚呼、後悔…。
「こんな時間、生徒な訳…無いし…」
俯いていた好美がゆっくり顔を上げた。


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