《魔王のウツワ・8》-3
「それにな、その佐久間なヒメを狙ろうとるらしい。今日も言い寄ってるのを見たから自分に教えたろ思てな。で、そうゆーことやから、ヒメが佐久間を好きやとしても、佐久間がヒメを好きやとしても、どっちにせよヤバいちゅうことや♪」
思わず握り拳を固め、立上がりかけたが、その衝動を押さえ込み、絞り出す様に言った…
「俺には…もう…関係ない…」
七之丞は短くなった煙草を吐き捨てると、地面で揉み消した。
「そうか、そうか…関係あらへんか…」
「……帰るぞ…」
「まあ…待て、話はまだ終わってへんわ」
立上がった俺の手を七之丞が掴んだ。振り向いた七之丞の顔には、にこやかな笑顔が張り付いていた。
「自分…今何ゆーた?」
「…ぁあ?」
何をまた言い出したんだと思った瞬間…
グラリ…と視界が崩れた。頬に鋭い痛みが走り、鉄の嫌な味が口の中に広がる。
「今何ゆーたて、聞いとんのやァ!」
珍しく、その細い目を見開き、憤怒の表情をした七之丞が俺の瞳に映っている。
「立て、コラァ!ヒメのこと考えてやと?ええ加減にせえよ、ど阿呆がッ!自分は何も考えてへん!ヒメの気持ちも、自分の気持ちも!ただの逃げや!ヒメに拒絶されるのが怖いだけや!はッ、この臆病もんが!死にさらせッ!ヒメが自分から迷惑やてゆーたんか?
ちゃうやろ!自分が勝手にそう思てるだけやろ!
ホンマにヒメの気持ちが分かってんのならどないしたらええんか分かるやろ?ヒメに自分の気持ち伝えろやァ!
ヒメはなァ、自分が来るんを待っとんのやァ!ヒメが来て欲しいのはな、勇者や王子やのうて魔王や!!古いわ、殺られ役の魔王は!ホンマに阿呆ちゃうか!?惚れた女ぐらい幸せにしてみせんかい!かっこつけんな、ボケェ!」
一気に喋り倒した七之丞は肩で息をしながら、まだ覚め遣らぬ怒りを俺に向けている。
「七之丞…」
「何や、ヘタレ!もう自分なんか魔王やのうてヘタレで十分や!!ぁあ?まだ何かあるんかい?ヘタレ!何かゆーてみ、ヘタレ!ほら、ゆえや!ゆえへんのか、コラァ!それでよーヒメのこと考えてるなんてゆえるなァ!ヘタレ魔王がッ!!」
本当にコイツはムカツクな…本当、嫌な奴だ…
「ありがとう」
嫌な奴に諭されるなんて…本当に嫌になる…しかも、それが結構まともだから尚更だ…
「何やそれ…キモッ…」
俺がバカだった…
「わー、嘘、嘘…な〜んもキモかないで…」
血の混じった唾を吐き捨て、固く閉じた拳と眼光に七之丞が後退った。
さっきまでの威勢は何処へやら…
「…姫野はまだ、校内いるのか?」
「よーやく、ヤル気になったか。あ〜、ちょい待ち…えっと…」