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きゅっ。
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きゅっ。 〜V〜-1

 ね、凌?凌ってどんな顔してるの?あたしは見るすべを持ち合わせていない。凌の顔見てみたいよ。きっと、声と同じで優しそうな顔してるんだろうね。
 もう望まないつもりだったのに。望んでしまう。凌の顔を見せて。あたしの目に光を。ねぇ?誰かあたしのお願い聞いて?


「これ…ちょっと露出しすぎじゃない?」
 肌に触れる布地の少なさにとまどいを隠せない美咲が身に纏っているのは、V字に開かれた長袖のTシャツ。
「今時普通だよ。美咲はスタイルいいんだからそれを活かさないなんてもったいない。彼氏もできたんだしお洒落しなきゃね。」
 毎シーズン恒例の、香織による美咲に合う服を買いに、ショッピングに来ているふたり。服飾デザイナーを目指している香織にとってもいい勉強にもなるから、と嫌がる美咲を連れ出して、あれやこれや着せ回る。
 美咲の母は、毎回これを楽しみにしている為、結構な大金を美咲に持たせては出掛けさせる。その背景には、目以外には何不自由なく生活させてやりたいという親心も含まれているようだ。
 何件かを、はしごしたが、先程の1枚を購入したのみで、休憩と喉の渇きを潤す為に喫茶店へと入っていく。
「ごめんね、疲れたでしょ?ここは私の奢り。なんでも頼んで?」
「えっ?いいよ。毎回服選んでもらってるのに。」
「遠慮しない、遠慮しない。えっと…メニューは…」
 メニューに記載されている品物を、美咲の好きそうな物のみ、口に出して読んでいく香織。

「フルーツパフェとアイスミルクティー。」
「OK。」
 店員を呼び、伝える。どの店にもブザーがあれば美咲もひとりで、どんな飲食店へも入っていけるのに。そんなことをふと思った香織だった。


「行ってきます。」
 満面の笑みで家をあとにする。ちょっと小走りに見えるのは気のせいだろうか。小走りになるのも無理は無い。1週間ぶりの凌とのデートなのだから。この間香織に選んでもらった服を着て、転ぶ危険性の高い美咲としてはあまり履かないミニスカートも履いている。
「美咲!」
 呼ばれた方へ耳をかたむける。この声色は間違いなく凌の声だ。
「先になんか食べてから行こっか。」
「うん。」
 お洒落なお店へ…と行きたいところだが一人暮らしをしている身、その上月末とあってファーストフードへと美咲を連れて足を運ぶ。
「ごめんね。こんなとこで。」
「うううん。ここのチーズバーガー大好きなんだよ。」
 互いに同じ物を頬張る二人。ほんとに好きなんだな、と思わせられる食べっぷりに思わず笑みがこぼれる凌。
「ケチャップ付いてるよ。」
「え?どこどこ?」
 口周りを手探りで見つけようとするがそれらしきものは無い。…と、そこに凌の指が拭き取ってくれた。
「ありがと。」
 その指がその後どこに持っていかれたのか、想像もつかない美咲の感謝の笑顔に凌は後ろめたいものを感じていた。


 美咲の利き手は右だ。いつでも利き手は自由であるよう、白杖はその逆の左手にいつも握られている。今日は利き手も塞がっている。愛しい人の手によって。小さい頃は気にもとめなかったが、他人と手を繋ぐということがこれほどまでに安心感を得ることだとは知らなかった。凌と出会ってから知らなかった感情をいっぱい貰った気がする。人を信じること、大切にすること、寂しさ、愛しさ…。これら全部が「恋」ってことなんだと初めて知った。もちろん、これが初めてじゃない。でもこんなに胸が苦しくなる思いは恋はしたことがなかった。


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