微笑みは月達を蝕みながら―序章―-4
「そう……残念ね」
レンは白がそれなりに大事なのか、二度目は強要しない。壊さないように、細心の注意を払っているからだ。
レンは白の髪を指で梳きながら、軽く唇を合わせる。
「戻っていいわ。私もだいぶ鎮まったし」
白は無言で立った。足に力が入らないが、だからといって何時までもここに居たくない。
「ねぇ、白」
そんな白の心情を知りながら、レンは白を呼び止めた。
普段の、知らない者が見れば優しいとしか見えない微笑みを浮かべながら、
「大丈夫よ」
まるで、母が子を慰めるように、
「赤の仇は、ちゃんと取ってあげるから」
残酷なことを、言った。
「…………」
白は答えない。
静かに襖を閉める。
そして部屋に戻って、泣いた。
でもやはり、涙は出ない。
何故なら白は、名前も涙も、陽の下を歩くことも心の尊厳も、人であることでさえも、奪われてしまったのだから。
いつの間にか、月が出ていた。
冷たく優しいその光だけは、白を慰めてくれた。