微笑みは月達を蝕みながら―序章―-2
レンの言うことに逆らえるはずもなく、白は言われたままにレンの自室に向かった。
レンは黒い単衣に着替えていた。それでもレンの美しさは変わらなかった。
心なしか、若干顔が紅潮している。
「貴女、赤と恋仲だったんですって?」
質問ではなかった。これは確認で、だから白は答える必要などない。
「気の毒だったわね」
嘘だ。彼女が誰かに同情することなど、世界が終わっても有り得ない。
「……でもね、白…」
声が、とろりとした甘いものに変わった。白は――恐怖を、覚えた。
「……今夜はね、赤が死んで……私も昂ぶってるの」
視線を蕩かせたその表情は、見る者の動きを封じ込める。白も例外ではなく、ゆったりとした動作で首に腕を巻き付けられても、白は動けなかった。
「……私を、鎮めて…」
顎を上げさせられた。レンの目の前に、白の柔らかい首筋がある。
「…………美味しそう……」
絶望を、呟いた。
ブツッ
白の首筋に、歯が入った。溢れだす血が貪欲に飲み込まれていく。
「――あ、ああ…、あああ……!!」
血が吸われる、その感触に白は嬌声を上げる。
それは、奴隷としての官能。
じゅるじゅると、下品なまでに音を立てながらレンは血を啜る。
それでも足りず、傷口に舌を差し込む。どこまでも貪欲に、レンは己の眷属を蹂躙する。
「――ああ……」
吸う力が弱まった。もう終わってくれるのか、そんな期待は
「はあああああっ!!!」
させてくれなかった。
先程よりも強く強く吸い、傷口に差し込んだ舌はさらに奥へ。
「あ、ひっ、い、いやぁ……」
緩急をつけ、刺激に慣れさせてくれない。足がガクガクと震え、力が入らない。崩れ落ちそうになった身体をレンが支え、まるで恋人同士のように密着する。
その間もレンは血を吸い続けていた。
「あふっ、んっ、あ、あ、」
感覚で出血が弱まってきたのがわかった。もうすぐ。もうすぐ、終わる。
甘かった。
「ああああああああああ!!!」
レンは傷口に差し込んだ舌を掻き回しはじめた。異物によって掻き回されるその官能は、屈辱は、とても耐えられるものではない。
「お、ねが……も、もう……」
瞬間、視界が暗転した。レンが身体を放したのだとわかったのは、畳の目が見えたからだ。
身体が、動かない。
「……やっぱり、貴女はいいわ……味もそうだけど、何より反応が凄くいい」
恍惚とした言葉も、どこか現実離れして聞こえてくる。
「……さぁ、身体も温まってきたし……やっと本番に入れるわ……子宮が疼いて疼いて仕方ないの」
まだ。
奴隷としての本当の地獄はこれから……