わたしと幽霊 -心--3
色々と思案しながら学校を後にし、藍色と朱が入り交じる夕空の下を歩く。
黒く長く伸びる影を見下ろしながら、前を歩く高谷さんの高い背中に尋ねた。
「えと…つかぬことをお尋ねしますが…」
「ん?」
「えっと、あたしとずっと一緒なの?」
「背後霊だからな」
…にしては、いつもあたしの前に居るけど。
「てか、一時的に一定距離を保つのも無理なの?」
ん?と、意味が伝わらなかったのか、高谷さんが眉間に皺を寄せた。
えっと、要するにだね…
ほら、身近な問題っていうか――
――お風呂とか、お手洗いとか、エトセトラ。
女の子にとっては、重大な問題であるからして…
「できなかったら?」
つまらなそうに返す高谷さん。
できなかったらッ!?
え゛…えぇ…っと…
「…何とかするさ。安心しろ」
絶句するあたしを見て、彼は小さく苦笑した。
もしかして、また考えてることを読まれた?
…いや、あたしの言いたい事を予測してたんだろうな、きっと。
高谷さん、なんかオトナな感じするし。
鈍感な人じゃなくてよかった。
ほっと胸を撫で下ろす。
ふぃ、と高谷さんの真っすぐに伸びた高い背中を見上げた。
深色の地面に伸びる影は一つだけど…もう一人、あたしのすぐ傍にいる。
やっぱり、何だか不思議。
「……………」
まぁ、それでもやっぱこうなるよね…
自分の部屋のMDコンポが勝手に起動してBGMが流れだすのを、大きなクッションに深く沈みながらげっそりと眺めた。
…寝てる間は静かにしてね。
金縛りにはよくなるけど、怪奇現象初体験。
何だか今日は疲れたょ。
「お風呂行ってくるね。大人しくしててよねっ?」
あたしは人差し指を立てて、高谷さんに釘を刺した。
見られて困るものは置いてないはず。
良かったぁ、日記書く習慣なくて…
「早く行け」
デスクの椅子に座った彼は、しっしっと手の平であたしを追い払う。
ったく…ここはあたしの部屋だっての!
ちょっと頭にきながら、着替えを胸に抱いて部屋を出た。
そしてあったかい湯槽に浸かってぼーっとしながら、今日の出来事を反芻。
――あたしの背後霊の高谷さんは、
まぁ、イジワルだけど
悪いヒトじゃない――…
「………」
彼の視線の先であたしの鞄のジッパーがジィー…と勝手に開き、中から一枚の紙がふわふわと浮かび上がる。
それは高谷さんの手元まで移動し、かさりとデスクに落ちた。
それを手にした彼はゆっくりと開き――
無言で、静かな眼差しで、少しぼやけて映った写真を見つめていた。