わたしと幽霊 -心--2
あたしは、いつしか彼の表情を盗み見ていた。
すごく優しい眼をしてる。
本当に好きだったんだね…8年経った今でもずっと。
いいなぁ……
あたしも、永遠を選ぶほど好きになれるヒトが欲しいなぁ…と思わせられるほど、それは暖かい眼差しだった。
…よーし。
何だか妙に胸を打たれたあたしは、彼と彼女のために一肌脱ぐ決意をした。
彼の記憶の断片を繋ぎ取れなければ、結局意味がないのかもしれないけど。
「これ、コピー取ってくるね」
名簿を手に、小走りにコピー機へと向かう。
その後ろ姿を、彼は不思議そうに眺めていた。
いけ好かなくて意地悪な人だけど。
だから早く消えてほしいとか考えてる訳じゃなく。
早く今生への無念を取り払って、あの世の彼女と再会してほしい。
8年越しの恋…
あたしが叶えてあげるから――
「……おい」
椅子に座ったまま、コピーを終えて戻ってきたあたしを見上げた高谷さんが、その想いを断ち切るように言葉を挟んだ。
「えっ?」
眼鏡の奥の目が、心なしか怒ってるように見えるのは気のせい?
「余計な事するなよ」
「余計なこと?」
って、何だろう。あたしは首を傾げる。
「さっき、お前が考えていた事だ。8年前の事を聞き込みしようと思ってただろう」
「うん」
そうそう。
8年前なら、その頃から現役やってる教師がまだいるハズ……ん?
…………。
―――えっ!?
「あ、あな、あなた…!」
まさか、心を読めるの?!
あたしは言葉を失い、口をぽかーんと開けた。
「仕方ないだろう。今お前と俺は一心同体に近い状態なんだ」
俺だって聞きたくて聞いたんじゃない、という面持ちで高谷さんが言い捨てる。
うそ……
心の中を読まれるなんて絶対イヤだよっ!
「さっきのは、何か妙な事を考えてるのが目に見えたから少し聞いただけだ。
もう聞かないから安心しろよ」
そう言われても…聞かれてるかどうかなんて、あたしには分からないんだもん。
「うぅ〜……」
でも彼の言葉を……信じるしかないし。
だってだって、自分の心の中が誰かに筒抜けになってるのを想像してみて?
…誰が相手でも絶対に嫌に決まってる。
でも憑かれたあたしには防ぎようもない。
迂闊なコト、考えられないじゃん…
「…約束だからね」
仕方なく、あたしは高谷さんの言葉を信じる事にした。
というワケで――
高谷さんのばーかばーかばーかばーか。
「…………。」
あたしは行き場のなくなったコピーを手に図書室を出ながら、前を歩く(?)高谷さんを見上げた。
何の反応も表情にない。
…よしよし。
まぁ、それはそれとして。
どうして高谷さんは聞きこみを嫌がったのかな。
その方がきっと、記憶の断片を繋ぎやすくなると思うんだけど。
聞いたら教えてくれ…ないだろうなぁ。
あたしも彼の心が読めないかなぁ。
…なんか不公平。