溺愛2〜鏡の刺青-1
『早足で歩いたから…』
ストーブの上に置かれたホーローポットから、
シュンシュンと沸き上がる蒸気に手を翳す奈緒子。
奈緒子のコートを預かりハンガーラックに整えると、一樹の鼻孔に冬の匂いが染み入っていた。
『会いたかった…』
背後からギュッと奈緒子を抱き竦めると、
その凍てついた唇に一樹の唇が重なり合う。
『奈緒も逢いたかった』『く、苦しいよ一樹…』
『奈緒の温もりを感じると、ホッと心が落ち着くよ…。』
『一樹!はぁっ**』
重ねた唇を外し、
互いに見つめ合う一樹と奈緒子。
『紅茶でも煎れるね!』
『うん…』
熱いお湯が注がれたティーポットが飴色に染まり、曇り硝子のサッシュに指先で描き準える奈緒子
一樹が大好き!
奈緒子
『うふっ、一樹見てっ』
指先で描かれた悪戯書きにハートマークが添えられ、くぐもった部屋の暖気に乾いた半透明の印影を浮かばせていた。
『奈緒っておかしいね!』
『凄い大人に感じたり、子供みたいだったり…』
一樹は笑みを手向けながら、飴色のアップルティーを口元に運んでいた。
『朝から何してたの?』
一樹が開いたノートパソコンの画面に見入り、
『女青刺画案』と表示する画面をスクロールすると、青磁色の入れ墨を施した裸婦像が、次々と奈緒子の視線を釘付けにしていた。
『綺麗ね…』
『うん、偶々見つけたんだけど、あまりに艶やかで見惚れていたんだ…』
『おどろおどろしい怖さも感じるけど、
同時に妖艶な美しさも感じちゃうわね!』
『奈緒はどれが好き?』
『これ、断然綺麗よ!』
『不思議だね、好みが一致するなんて…』
静止された画像を見入る一樹は、マウスを握る奈緒子の手に、そっと自分の右手を重ね置いた。