甘酸っぱいストロベリージャムとともに-1
──この世の何処かには禁断の魔法が存在する。
それは光、闇のいずれにも分類されない。
創造と破壊を併せ持つその力は、永きに渡る封印の年月を経て今、目覚める──
空気とはこんなにも重いものなのだろうか。
今まで意識しなくても当然の如く存在し、それでいてその存在を感じさせないくらい『無』に近いものだと思っていた。
いつもは鮮やかな緑や青の色彩を放っている景色が、ある日突然まっ黒に染まる事など、予想できるはずもなく。
空気の存在が当然の事ならば、君の存在も当然の事だと思っていた。
『失う』ことの恐怖にこれほどまでに打ちのめされたことはない。
今、僕は一生に一度の願いを、祈りを、神へ…。
どうか、救いたまえ。僕の愛しい人。せめて僕の命と引き替えに。
「ねえ、アークドは将来の夢とかある?」
「なんだよ突然」
「いいから! ねえ、ある?」
それまで自分の将来なんて全く意識した事がなかった僕はしばらく考え、なんとなく思いついた職業で応えた。
「…農場経営主かな」
「えぇ〜っ。つまんない」
君はまるで面白くなさそうだ。
一応理由もあるんだが。
「もっと違うの無い?」
「あのな、自分の農場で果物を栽培すればこんなとこまで来なくても、沢山食べれるじゃないか」
「…ぷっ」
「コラ!笑うな」
「だって、子供みたい」
君はこれでもかというくらい目を細めて笑っている。
「お前、果物好きだろ。いつも今みたいに野苺とか採りに来てるじゃん」
「アークドのばーか。農場なんて造ったら楽しみが無くなっちゃうじゃない!」
「楽しみ?」
「・・・一緒に長い道を歩く時間」
それを聞いて僕は一瞬、言葉に詰まった。
何故この時まで気付かなかったのだろう。
二人でいる意味に。
君が望んでいたのは本当にささやかなものだったんだね。
そしてそんな君の純粋な気持ちこそが僕を導いたのだと。