甘酸っぱいストロベリージャムとともに-2
「サラ…」
胸の奥からぐっと込み上げてくる愛しさに駆られて君を抱きしめようとする…が…
「コラコラ。ここで抱き合ってたら熊に襲われちゃうよ」
君は片手で僕の胸を制していた。
やがて互いに笑みが溢れる。
いつの間にか空が薄紫になり、風が少し冷気を帯びていた。
「そろそろ帰ろう」
「そうだね。あんまり遅くなると村の皆も心配しちゃうしね」
一時間ほど歩いて来た山路を折り返す僕達。
そういえばこうして並んで歩いている時ってとても心地良い。
幼い頃から一緒に遊んでいるけど、この時間だけはいつまでも続いて欲しいと思う。
ただ、そう強く思えば思うほど、それが叶わないのではないかという不安が脳裏をよぎる。
幸せがあるという事は、失うものがあるという事。
その翌日も、母さんの仕事の手伝いを済ませるとすぐに君の家に迎えにいった。
すっきりと晴れた昼間。
また二人だけの道を歩きたかった。
「おーい、サラぁ。出掛けようぜ」
いつものように門戸を叩きながら呼び掛ける。
そしていつものように二階の窓から君が嬉しそうに顔を出してくるのを僕は予想していた。
それは99パーセント当たるものだと確信していた。
なにせこれまで僕が迎えに行って君が出て来ない日は一度もなかったから。
だが、どうやら今日は99という数字に見放されてしまったようだ。
何度呼んでも君は顔を見せてくれなかった。
しばらくして、おもむろに戸が開けられ君の両親が出てきた。
その二人の表情を見るなり、君の身に何かあったのだと直感した。
一気に不安が込み上げ、事情を聞こうと口を開いた僕より早く、父親が言葉をついた。
「サラに会いに来てくれたのかい」
何とも重苦しい雰囲気に声も出せないまま、僕はコクリと頷く。
「そうか。いつもありがとう」
そこで一瞬言葉を失った隙を突いて僕は一番気になっていることを単刀直入に訊いた。
「あいつに…サラに何かあったんですか?」
すると今度は父親に代わって母親のほうが応えた。
「アーちゃん、落ち着いて聞いてね。サラはね、もう半年も生きられないのよ」
「えっ…?」
さらに続けようとした母親を父親が制した。
僕はというと、未だに言っている意味が解らず動揺していた。
さっきまでの明るい空は重い雲に覆われ、暗くなり始めていた。
やがて雨が降り出した。