星霜の死と不思議な少女-3
「着いたよ。」彼女の声で目が覚めた。しばらく眠ってしまっていたらしい。目をこすりつつバスから降りると。
「え、ここ遊園地?」
そこは地元の遊園地だった。
「そう。映画やコンサートは一人でも楽しめるけど、遊園地はやっぱりねぇ。もし元に戻る方法が知りたいのなら……今日一日私とデートしなさい。」
一筋の風が吹き抜ける。一瞬、僕達の間に静寂が生まれた。
僕は口を開く「それが条件?」
彼女はコクリとうなずいた。
「わかった。今日一日、約束だよ。」僕は内心これでいいのか不安を感じながらも、同意した。
夕方。
僕達は遊園地へと入る。
夕陽が照らす遊園地。敷き詰められたタイルの持つ、色とりどりのコントラストも変っていく。その憧憬はその日一日の終わりを告げるようで至極切ない。
入場口はなんなく通ることができた。
しかし、乗り物は慎重に選ばなくてはならない。
ジェットコースターのたぐいは未だに行列ができていて、姿の見えない僕達には無理だ。
結局、二時間歩きさ迷ったがメリーゴーランドとティーカップしか乗れなかった。
しまいに、僕達はベンチに腰かけてため息をついた。
「……なあ、もう満足?」
彼女は無言で首を横に振った。なんだか、だんだんと彼女にも僕に似た幼さがみえるようになってきた。最初に会った時は、姿以外の言動がすごく大人びてると思っていたのに。
僕はポリポリと頭をかいて立ち上がると、風にのって転がってきたボロボロのパンフレットを拾った。ひっくり返して遊園地の案内図を見る。
「そうだ!観覧車に乗ろう!これなら。」
僕はパンフレットをポケットに詰め込むと、彼女の手を引っぱって観覧車へ向かった──。
闇が空を覆い、時折雲の間から月明かりが差し込む。しかし、それ以上に様々な色のネオンが僕達を照らす。
観覧車に乗り込み、リフトが最上まで来ると僕達はそこからの街の夜景に見入った。
星のように無数に散らばる街の光は、今まで見たどんな景観よりも美しかった。
霊魂やら幽体離脱やら、自分が巻き込まれた超常現象など、もうどうでもよく思えてきた。
僕達はリフトを降りて遊園地の出口へ向かう。彼女は満足してくれたのだろうか?
再びバスに乗り、もと来た道を戻る。
「ねぇ……」彼女が口を開いた。
「今日は本当にありがとう。楽しかったよ。」彼女のほほえみを初めてみた。
「僕も。」素直に言えた気がした。
バスは国道を走る。病院を通り過ぎて橋にさしかかった。
そして、いよいよ僕が彼女に元に戻る方法を尋ねようとした。
その時!
車体が大きく揺れて、バスが斜めに浮いた。
さらに橋の欄干を突き破りバスは川へと落ちていき、水中へと潜っていく。