tomoka〜Kana-5
家へと続く通い慣れた道を、一人とぼとぼと歩く。日暮れ前の細い道なんて今のあたしの心境にぴったりじゃない。余計切なくなるじゃないさ…
「みのる」「みのる」「ミノル」「ミノル」…
呪文のように実の名前を呼んでみる。もう自分のアパートのすぐ側まで来ていたから、知り合いに聞かれる可能性もあったけど、そんなこと構っていられなかった。
だって会いたくて会いたくてしかたがなかったから。どうして側にいないのよ！
「みのるぅ。」「はい」「ばか。」「すみません…。」
―え？
今「すみません」って誰か言った？
キョロキョロと辺りを見回してみるけど、それらしき人影は見当たらない。
ついに幻聴まで聞こえるようになったかぁ。落ちるとこまで落ちるのもいいかもしれないね。
ほら、だって幻影まで見えてきたもん。いるはずのない人があたしのアパートの前に立ってるのが見える。
幻影でもいいから側にいてくれないかな。近づいたら消えてしまいそうなその人影をぼんやりと眺めていると、今度はその人がこちらに近づいてきた。
「かなさん」
「え？」
「かなさん！」
「…実？え…、なんで？本当にいるの？？」
気づかれないように目元を服の袖で拭う。
「香さんに聞いたら、たぶん家に戻るはずだって言うからずっと待ってました。」
「待ってました……って、あたしを？」
「はい。」
「どうして？」
「伝えたいことがあって。かなさん、きっと気づいてないから。」
「……分かってるよ。」
「マジすか？」
そんな驚いた顔しないでもいいじゃない。
「うん。」
「…いや、あの…本当に？」
「…香のことが好きなんでしょう？」
そんなこと分かってるよ。実の口から言われなくたって…だから言わないで？お願いだから。
「………」
「ごめん。でも応援できないや。」
あたし笑えてる、かな？
「どうして…」
「だって、あたし」
実のこと好きになっちゃったから。…なんて言えない。
「どうしてそう思うんですか！」
「え？」
「俺が好きなのは香さんじゃなくて、かなさんです！」
「……うそ。」
「本当。」
「本当に？」
「うん。」
涙が、ぽろぽろぽろぽろ零れてくる。
それが嬉しいからなのか、安心したからなのか、それとも違う何かのせいなのかは分からなかった。