光の風 〈封縛篇〉前編-7
「国民の安全を守のがあんたらの仕事だろうが！」
それはカルサにとって流してはいけない言葉だった。すぐに言葉が放たれた方向をみて、声の主を探す。人々は初めて見せた自国の王の反応に動揺する。
「な、なんだよ。」
思わず声の主は自ら反応してしまった。群れや流れにのっていたのに、一人にされると弱くなってしまうのが人間の心の弱さなのかもしれない。
怒るわけでもなく、カルサは静かに口を開き思いを言葉にした。
「国民の命を守る責任があるのは私一人だ。国を守る義務があるのは王である私一人だ！軍人や女官、大臣たちには何の義務もない。そこは絶対に間違えてはいけない。」
カルサ・トルナス王の言葉は静かながらも強い力を持ち、多くの人の気持ちを鎮めた。ただ一人、言葉を放ったこの騒ぎの第一人者は屈せず尚も自分の意地を通す気でいる。
「それが、仕事じゃないのかよ！？」
「仕事というだけで命はかけられるものではない。彼らの誠意だ。救助活動をしている軍人達は皆、民を思う心で動いていることを忘れてはいけない！」
真剣な表情。不安から生み出した民達の心の乱れは、まだ若い国王の言葉によって解決された。
静まり返ったその空間は、少しずつ穏やかさを取り戻してゆく。その様子を見届けると、カルサは最後まで主張した男に近寄り肩を叩いた。
「皆の声を聞かせてくれてありがとう。貴方のような方がいなければ、皆、不安な思いを吐くことができなかった。」
「王様…。」
「王陛下、サルス様がお探しです。」
突然の呼び出しにカルサの穏やかな顔は一気に厳しく変わってしまった。その瞬間を何人かの民は目撃する、肩を叩かれた男ももちろん例外ではなかった。
すぐ行くと返事をした後、カルサは一度男にほほ笑み再び厳しい顔をして急ぎ足でその場から立ち去っていた。
歩きながらの忙しい会話、何人も国王を求め、その場で的確に判断をし指示しながらカルサは部屋を後にした。
「あんなに忙しいのか、王様ってのは。」
ドアが閉まった後の静けさの中で男はぽつりと呟いた。その言葉に皆が同意したように国王が去ったドアを見つめる。
「陛下がお忙しいのは毎日です。休む間もなく、激務をこなされています。」
女官の言葉は当たり前のように心に入ってきた。子供を抱えた女性が不安そうに声を上げて女官に尋ねた。
「あの…風神さまは？」
その質問に女官の表情は曇り、両手を胸の前で祈るように組んでみせた。近くにいた女官に目で求め、彼女もまた深刻な顔で見つめていた。
「私が代わりに。」
囁くような声で、後ろから女官の肩に手をあて名乗り出た。その人物こそ、リュナ付きの女官セーラ。まだ若くして多くの信頼をえている、サルス指名でリュナ付きに任命された実力者であった。