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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*0*-1

「…あたしじゃありませんように…。お願いします…お願いします…」
あたしはいるかどうかも分からない神様と呼ばれる類の者全てに、小さいながらもはっきり声に出して真剣に祈った。
「天野…天野…津川…天野…」
学級委員長である雅博の声が、静かな教室に異様なまでに響く。その度にもう一人の学級委員長、鮎子は綺麗な『正』の字を黒板に印していった。
今のところ『天野』に正の字が三つ、『津川』に正の字が二つと四画目まで、『阿部』と『高輪』に三画目までの半端が一つずつ。
あと四票…。
「天野…津川…津川」
カッカッカッと三回、黒板とチョークが擦れる音がした。
「最後の一票は……」
雅博、ためる、ためる、ためる…。
「天野!女子の実行委員は天野に決定しましたぁ!」
その瞬間、あたしは人に崇められている奴らを片っ端からブン殴りたいと思った。
「ちょっと待ってよ!あたし、隣の席になってあげたよねぇ!?」
もちろん、あたしは選挙の結果に異議を申し立てる。
「それとこれとは別問題でしょ。観念しな、音羽」
フフンと鼻で笑いながら、前の席に座る『好美』が振り返った。あたしと一票差だった津川こそ、この誇らしげな好美。
「そんなぁ〜…。コイツと隣の席になった上に、実行委員も一緒しなきゃいけないなんて…」
あたしは、隣の席で気持ち良さそうに眠る男を睨み付けた。そして、薄情なクラスメイトを見渡し
「絶っっっ対にイヤだからね!!」
と叫んだ。
そこまでしてなりたくない実行委員。それにはそれなりの訳がある。原因は先に決まった実行委員の男子…。ソイツこそ、あたしの隣の席で眠っている『矢上 瑞樹』。今年の夏に転校してきた最低野郎だ…。


それは、残暑の厳しい二学期の初日。
担任の先生が、黒板に『矢上 瑞樹』という名前を書いた。
「急ですけど…。転校生がうちのクラスにやってきまぁーす」
「ぇぇえええーッッ!?」
本当に急過ぎる告知に、お決まりのリアクションをとる我が三年一組。
そのリアクションが見たかったのよとでも言うように、茶目っ気たっぷりな笑顔を浮かべた先生は「静かにっ」とあたしたちを宥めた。
「それでは入ってもらいましょう。どうぞー♪」
あたしは期待して教室の扉を見つめる。
『みずき』というからには女の子だろう。どんな子かな、仲良くなれるかな、などという淡い考えは脆くも扉が開いた瞬間に崩れさる。
「格好良い…」
これはあたしのセリフじゃない。四方八方から聞こえてくる女子の声だ。
確かに格好良いとは思う。高い背丈に少し焼けた肌。Yシャツから覗く二の腕には程よく筋肉が着いている。少し茶色掛かった髪の毛は無造作にワックスで整えられていて、切れ長の綺麗な瞳、完璧に配置された顔のパーツ。そこらの芸能人よりも綺麗だと思う。
でも、あたしは素直に皆と同じようには騒げなかった。
「やがみ みずきです。よろしくお願いします」
女の子ではなかった瑞樹君は、長い体を少し曲げてお辞儀した。
「ねぇねぇ、瑞樹君超イケてない?あたし、ストレート直球ど真ん中で打ち抜かれたんだけど!」
「う、ん…。格好良いと、思う…」
キラキラと目を輝かす好美とは違って、やっぱりあたしはキャーキャー言えない。
あたしにはどうしても、転校生の笑顔が心から笑っているようには見えなかった。


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