隣の教室の雨-1
夕暮れ、太陽の光りが教室をオレンジ色に染めている、秋のことだった。
明日提出の課題を忘れ取りに学校に戻った俺に、聞こえた声を潰したすすり泣くオト。
オイオイ幽霊が出るにはまだ早いぞ、と思いつつ教室内を見渡した。
「隣か?」
すすり泣きが密かに聞こえる距離だ。
思えば引力でも出ていたのかもしれない。
なぜか俺は、幽霊がいるかもしれない隣の教室をのぞき込んだ。
そこには、髪の長い女の子が床に座り込んでいた。
俺は、まず足があるか確認した。
足はある。
足があったことにホッとした俺。
女の子はそんな俺の視線に気がついたのか、振り向いた。
驚くくらい綺麗な顔、でもその頬には涙が流れていた。
オレンジ色の空間、綺麗な女の子に涙。
それはとても、映画のワンシーンみたいに綺麗で
なんて綺麗に涙を流す女の子なんだ
って思った。
でも何故、床なんかに座り込んで泣いてるんだ?
近寄り視線を下ろした先には、ビッショビッショのジャージ…しかも落書きまで添えられて再使用不可な状態だ。
俺はしゃがみなるべく女の子の目線にあわせる。
「どうする?捨てていくか?」
俺は言葉に迷い、そんなことを聞いていた。
女の子は泣きながら顔を横に振った。
「もう使えないと思うよ?」
落書きは油性ペンで書いたのか、水に浸して文字が滲んでもいない。
「学校に捨てたら他の人に見られる……」
涙ながらに女の子が答えた。
「他人に見られてまずい落書きなのか?」
売女、淫乱、男好き
そんな文字が殴り書きされたジャージ。
「違うっ、」
じゃあ、なんだ?
…………あぁ。
「こんな事されてるのを、知られるのがイヤなのか?」
俺はこれしかないと思い、女の子の顔を見つめる。
女の子はゆっくり顔を縦に一回動かした。
「ちょっと、待ってて」と言って、自分の教室に戻った。
誰かないかなぁ〜色が濃いめで大きめの……
発見!誰のだ?
それがある机の名札を見る。
俺は速攻で名札が表す人物に電話をした。
コール5回半でそいつは電話に出た。
「あ…奏介、いきなりなんだけど机横に引っかかってる黒いショップ袋もらっていい?」
奏介は俺の幼なじみの親友だ。
「あぁ、どうぞ」
奏介はいつものように穏やかにOKしてくれた。
「ありがと。」
そう言って電話を切った。
これなら中も見えない。ビニールだし水も滴ってこない。
奏介のショップ袋を手に女の子のいる教室に戻る。
女の子に近寄って、またしゃがむ。
「これに入れてどこかに捨てよう」
俺はなるべく優しくそう言いながら、ジャージを袋に詰め込む。
「ありがとう」
そう女の子は小さな声でそう言った。
顔をみると、もう泣き顔ではなく変わりに極上の笑顔だった。