愛欲の密室〜由起夫と奈緒子-1
メールという
デジタルな回線は、
ともすれば淡白で
無機質なものでしか成り得ない。
由起夫と奈緒子は
そんなバーチャルな世界で出逢い、
惹かれ合う二人の魂は
紡ぎ合うコトバでインスパイアされ、
妖艶な彩りを帯びた電波は互いの心に溶け合うように交錯していた。
何時しかそんな二人の魂を現実へと誘う夜を迎え、由起夫は駅前から程近いホテルの高層階にチェックインし、逸る気持ちを抑えながら約束していたダイニングバーへと歩先を進め、『蛍』と名付けられた趣のある扉を押し開け、
カウンターで佇む奈緒子の姿を見つけると、
落ち着いた姿態を見せながらも、凛とした色香を漂わせていた。
由起夫>
『今晩は由起夫です!』
奈緒子>
『あっ、奈緒子です!』『カウンターで良い?』
由起夫>
『僕はどこでも…。』
軽い会釈を交わし、
横並びのカウンターに座を据えると、
絡め合わせた視線に安堵しながら、たどたどしい言葉を交わしていた。
奈緒子>
『写メより大人な感じ』『ねぇ、言われない?』
由起夫>
『うんっ?そうかな…』『奈緒子も、写メより実物の方が綺麗…』
奈緒子>
『嬉しい、有り難う!』
由起夫・奈緒子>
『………………・・』
奈緒子>
『でも由起夫の写メには驚いちゃった…一体どんな人何だろうって(笑)』
由起夫>
『人を驚かせたりするの割と好きなんだ(笑)』
由起夫から奈緒子へ送られたメールは、何も纏わない裸の自画像にまで及んでいた…。
由起夫>
『悪戯好きなんだ、もしかして退いちゃった?』
奈緒子>
『初めは少し退いたけど、何度かメールを交わすうち由起夫の人格も何となく判ったし…
今は全然平気(笑)』
由起夫>
『良かった!誰にでも送ってる訳じゃないから誤解しないでね?』
二人は顔を見合わせながら笑った。