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出口
【青春 恋愛小説】

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出口-2

ねえマオ。与えられると次が欲しくなる。欲しくて欲しくてたまらなくなる。自分が自分で居ることを覚えたあたしを、一番近くで受け入れてくれたマオ。嬉しかった。幸せだと感じた。それでもあたしはもっと求めた。心よりも言葉よりも確かな物が欲しかった。
「マオさん。お口にキスは?」
「…本番までとっとこうよ。」
小さな女のこだったあたし。待ちきれずに毎日ねだった小さなあたし。その頃にはあたし達は二人ともお互いにとろけてしまっていたから、それがどんなことなのか、この先何が待っているのか考えもしなかった。
「マオさん、お口にちょうだい。」
「だめ。まだだめだよ。」

ねえ、言うこと聞いておけば良かった? でもどうしたってあたし達は進んで行ったんだと思う。二人で居れば暗いトンネルだってネバーランドに繋がっていた。ピーターパンは現れなかったけれど。
小さな獣はその艶やかに潤った唇に噛みついた。わずかに音を立てながら、唇は移動する。上から下へ。右から左へ。まだ取り返しはついたかもしれない。ここでやめることができたなら。やめる? その方法をあなたが知ってるって言うなら、あたしは悪魔にだって魂を売っただろう。もうあたし達は我慢ならなかったのだから。とびっきりの甘い表情で、もっと甘い声を漏らしながら、もっと気持ちいい場所を探す。唇を舌でなぞる、舌の先と先を絡める、勢いよく絡み合った舌はどんどん奥に進む。いつ誰がやってくるか分からない一番乗りの稽古場に、熱い息を吐くあたし達。まだ、まだ。もっともっと。じんと湿った下着を、認めないわけにはいかない。
「マオさん、あなたのこと愛してる。」
「うん。同じ気持ちだよ。」
放っておかれた子供達は、ともすれば大人よりおそろしい。あたし達はいくらでも愛し合える。情熱のままに。
上演当日。誰もいないステージの上に置かれた小屋のセット。もし誰かがドアを開けたら? かまわない。あたし達愛し合ってますって言ってやろう。舞台前の高ぶりに任せてあたし達は口づけ合った。緊張と不安と期待の味がした。あたしの舌があなたの舌に記憶を残す。あなたの舌があたしの舌に記憶を残す。大丈夫。これであたし達はずっとお互いを感じていられる。大丈夫。大丈夫。今日が終わっても離れない。約束だよ。ずっとずっと一緒だよ。あたし達は、出陣に備えて最後のキスを交わす。ごく軽く、柔らかく。お互いの速まる鼓動を落ち着けるように……。

熱に浮かされたような二時間半二回公演が終わって一週間。あたし達はまだまだ離れない。
「もう帰るの? もう少し一緒に居ようよ。」
「明日もまた会えるでしょ? 今日はもうおしまいだよ。」
「でも…。」
それだけで今にも涙を我慢できないあたし。ああ、なんて若い。困ったように揺れるマオの瞳。
「それじゃあ…」
マオがあたしを強く抱きよせる。体温をどこまでも上げるキス。やがてその唇はあたしの耳へ。あたしの頬へ。あたしの首筋に、角度を変えて強さを変えて何度でもキスを降らす。その間にも手はあたしのトレーナーを捲り上げ、期待にぴんと張った胸を優しく撫でる。
「あ……マオ…? んっ…!」
下着の上から胸を揉まれる。お料理みたい、なんて考えるあたし。体は一人で反応する。表情もなにもかも、あたしはとろとろだったろう。
「……痛いっ。」
ふいに、下着の上に溢れた胸にそっと刺すような痛み。やっとマオが唇を離すと、真っ赤な花が咲いていた。
「はい、できた。これが消えるまでにまた会おうね。」
お預け。続きが欲しくてたまらなかったけど、我慢我慢。
「分かった。約束だよ。またね!」
焦るのはよくないもの。だけどやっぱり、マオはあたしより大人だったかもしれない。二つも年上だもの。でも、結局はこの熱い気持ちにあらがえないんだ。だって考えてもみて。あたし達は女のこだったんだから。女のこ。ほんの子供。少女。もちろん大人の女なんかじゃない。あたし達は ふ た り と も 、 本当の恋を知った女の子だったんだから、誰にも止められない。自分達以外の、他の誰にも……。
それでも確かに、これは出口のある恋だ。


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