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出口
【青春 恋愛小説】

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出口-1

その時あたしはまだたったの14歳だった。人との出会いなんてほんのちょっとだったし、中学校の勉強すら半分も終わっていない。14歳。なんて頼りない響き。でもあたしは大人に向かっていた。または、向かっていると信じてた。まだほんの子供だったのに。どこにでもいる愚かな子供だったのに(もちろん今のあたしだって充分お子様だけど。)。
出会いは、あるミュージカルの稽古場。あいつは格好良く言えば共演者で、正直に言えば一緒に舞台を創り上げていく仲間のひとりだった。
――休憩時間、椅子に座っていると誰かがあたしの背中をつつく。振り向くと、さっと背もたれの向こうに隠れるあいつ。ばればれ。勘弁してよ。そんなくだらない遊びにはつきあってられない。だいたいあんた幾つ? あたしより二つも年上でしょ…あたしは奴をじろっと睨んだ。
「今まではどんな舞台やったの?」
あいつが聞く。ちょっと待ってよ。せっかくの休み時間に誰かと話なんかしたくない。特にあんたなんかとは。
「…マオさんは?」
裏腹。あたしは返事をしてしまったのだ。自分の本当の気持ちを口に出せるほどあの頃のあたしは強くなかった。この場合、思ったままを言うのが良いか悪いかは別としてね。
「ん―とね……」
始まりはこんなもん。人なつっこくて悪戯好きのマオと、人付き合いを知らなかったあたしはいつのまにか仲良くなった。自分でも、びっくりするくらい。でもね、あたしは今でもこの出会いが正しかったのか、正直言って分からない。この先にあったのは浴びるような愛と幸福と、そしてそうじゃないもの。あたしは綺麗なものばかり見ていたかった。
演劇というものは、人と人との信頼だけに支えられて成り立っている。今あたしはそうと信じている。お互い心を裸にして、話し合って話し合って通じあって助け合って戦って、創りあげていく。舞台に乗る役者達も、乗らない裏方も、みんなで大きな輪を作る……あたしはそんな大切なことも分かっちゃいなかった。だから全部マオに教わった。勇敢に、誰かの心に入っていくマオ。年上だろうが年下だろうが、まっすぐぶつかっていく。マオのそのやり方は恋にも似ていたんだと思う。だってみんなが心を開いたもの。実際マオはとても美しかった。切れ長の目、長くないけれどバランスの良い睫、薄い唇。憧れ。尊敬。あたしはいつでもマオの隣に立って、そんなマオを見つめた。台詞を言って、あたしじゃない者を演じている間さえマオを見つめた。あたしはマオが大好きだった。マオのようになりたかった。そして少しだけ、間違えてしまったの、かもしれない。
「キスしてください。」
マオが稽古場から出ていく寸前、あたしは言った。心底驚いた目であたしを見た後、とろけるような優しい唇をあたしの頬に降らせたマオ。ねえマオ。あの時間違えたのは、あたしじゃなくてあなただったかもしれないよ。
それからあたし達の距離はますます縮まった。毎日の稽古前にできるだけ早く会って、食事――朝食だったり昼食だったり夕食だったり――をし、残りの時間は散歩にあてた。外は落ち葉の芳しい香りで一杯で、空気はますますぴんと張り詰めていく季節だったから、あたし達はまるで恋人同士みたいにぴったりくっついて歩いた。
稽古中も、あたし達はべったりだった。あたしは他の誰のそれよりもマオからの“ダメ”が嬉しかった。そしてあたしは、泣くことを覚えた。笑うことを覚えた。何も言えなかったあたしは、自分の気持ちを話しても良いことを知った。日々変化。日々成長。稽古はいつも悔しくて悔しくて、たくさん泣いた。マオの前でだけ、みんなから隠れてこっそり泣いた。舞台を創ることは、人とぶつかり合うことは、とても苦しい。それでもあたし達舞台の仲間はやめなかった。反面、それはとても楽しいことだから。上演日は確実に近づき、あたしとマオももっと近づく。


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