「ボクとアニキの家庭の事情・2」-1
「取り敢えず手ぇ洗いたいからトイレ行こ?」
電車の中で痴漢を撃退(?)した後、ボクらは1限目をサボる事にしたものの、まだ何してサボるか決まっていなかった。
「あのオジサマ凄いカウパー多かったんだケド」などと少しおどけながら手を握ったり開いたりしながら見せる。
「お前なー・・・・・。少しは恥じらい持てや」「いーじゃん、そんなお年頃のオンナの子じゃないんだし」
「・・・・・。その顔でカウパーとか言うなっちゅーねん」
そう言う馨の顔が一瞬曇ったような気がする、が「っさいなー・・・・・。別にこんな顔だってオトコだし、好きな相手とヤりたいし、何より自分の意思でこんな顔してんじゃないもん」
日頃から自分の顔や体にコンプレックスを持っていたボクは、少し強めに言い返す。
「・・・・・・悪い」
どうも歯切れが悪い。
「・・・・・いーよ、別に。あ。それよりボク朝からご飯喰ってないんだー。なんか食べよ♪」
「は?オレまだ喰ったばっかりやっちゅーねん」「知りませんヨ♪」
などと言いながらトイレに行き、汚れた手を洗う。ヌルヌルした感触が少しずつキレイになっていく。ボクは微かに心の中に浮かんだ黒い感情も一緒に洗い流し、既に改札口の外に出ていた馨を追いかけ、合流する。
「遅いわ」
改札を出たボクに笑顔で言う。まだそんなに時間は経ってない筈だが、コイツは自分の楽しみに使える時間に関しては割とシビアだ。
「ゴメンゴメン。何食べる?」
「腹減ってへんっつーとるやろが・・・・・なんか喰いたいモンとかあるん?」
「んー・・・・・ミスドもなんかヤだし、ファミレスもなぁ」
頭の中が既に食べる事で一杯になっているボクは適当に辺りを見回しながら目につく店を上げていく。
「あ。マック行こーよ、マック」
ふと目に止まったマクドナルドを指差し、提案する。
「マクドー?まぁえーケド・・・・・。」
そう言いながら既に2人とも足はマクドナルドに向かっている。
「マクドじゃない、マック。田舎モンがバレるよ?」
ワザとからかうように言うと
「アホか。マクドやっちゅーねん。マクドマクドマクド・・・・・絶対こっちの方が言いやすいわ」
「えー?絶対マックだってば。ナゲットだって『チキンマックナゲット』じゃん」
「そんなん関東の人間が関東に店作るからや!マクドのがイケてる!」
「うわ言いがかりだ(笑)ってゆーか馨だって関東出身じゃん」
「出身とかかんけーないねん、オレは歴史長い関西の血ぃ引いてんの!ぜったいマクド!」
「マック!!」
「マクド!!!」
『いらっしゃいませー』『・・・・・・。』
物凄く不毛な言い争いをしている間に気付いたら店の中に入っていたらしい。もちろん物凄く恥ずかしい。
「えっと・・・・・。何お食べになられますか馨君」
「・・・・・そうですね、ボクはホットケーキセットとオレンジジュースにします。紅君は?」
「それじゃあボクはソーセージエッグマフィンのセット、ジンジャエールで・・・・・ぷっ」
『あはははははははは』
学ラン来た学生が店に入って来るなり言い争い(しかもくだらない)しまくった上に、オーダーの時にいきなり仰々しい言葉を喋りだし、挙げ句の果てに大爆笑という非常事態だったにも関わらず、良く平常心(若干笑顔が引きつってたけど)で接客が出来るなと感心しつつ、取り敢えず今日最初の食事にありつける事になった。