「ボクとアニキの家庭の事情・2」-2
「いただきまーす」
と言うが早いかボクはマフィンにかぶりつく。
「ちっこい口やな、あいかーらず」
ストローでオレンジジュースを吸いながら(手ぐらい机の上に置いた方がイイと思うケド)器用に口唇を動かして馨がしゃべる。
「そーなんだよネー・・・・・って、馨に言われる筋合いないってば。キミだって口ちっこいじゃんか」
「む。んなコトない、ぜったい紅のがちっこい」「ふーん。んじゃ証拠見せてヨ」
「何せぇっちゅーねんな」
ボクは少し考えてから
「ホットケーキ一気に全部食べて♪」
微妙に普通の人でも難しいんじゃないかって事を提案した。
多分普通なら断るだろうが、馨の場合恐ろしく単純なので
「えーで別に。喰えばえーんやろ喰えば」
乗ってきた。
「・・・・・。」
「やんないの?」
目の前のホットケーキを睨みながら恐らく微妙に後悔しているであろう馨に対して、楽しそうに聞く。
「こんくらい、余裕で喰えるわ。バカにすんな」そう言い放つと意を決したのか「あぐっ」と音がしそうな勢いで口の中にホットケーキを詰め込む。馨は顔をリスみたいにしながら必死に口の中に入れたホットケーキを噛み砕く。
と、ボクはあるコトに気付き
「馨、ソレ味ある?ハチミツかけてないケド」
別に意地悪で言わなかったんじゃない。念の為。微妙に馨の顔が泣きそうになった気がする。
ー1分経過。
相変わらず噛み続けている。とゆーか飲み込めないんだろう。
ー2分経過。
取り敢えずそろそろ形は無くなって来ただろうが、やっぱり水分がないとあれだけの小麦粉は飲み下せない気がする。
と、いきなり馨が苦しみ出した。
「あ、バカ、全部一気に飲み込もうとしたろ」
慌ててボクはオレンジジュースのカップを馨に手渡す。
が、どうやら既に全部飲み終わっていたらしい。全力で首を横に振っている。
仕方なく飲みかけのジンジャエールを渡すと恐ろしい勢いで全部飲んでしまった。
「ぁー・・・・・死ぬかと思った」
「バカ。ってゆーか、ヒトのジンジャエール全部飲むとか。ひでぇ」
ちょっと凹みながらボクが言うと、悪いと思ったんだろうか、ジュース一個奢ってくれるコトになった。
まだ酸素不足で喘いでいる馨を置いてボクは下の階のカウンターへと降りて来た。
「えっと、マックシェイクの・・・・・イチゴ」注文を済ませ代金を渡し、ドリンクが出来るまでふと後ろを振り向く。
(・・・・・・・え?)
ボクの視界に入ってきたのは、有り得ない光景だった。
「・・・・・アニキ」
マックを出て通りの向こう側の歩道をアニキが歩いていた。
(・・・・・ここって、アニキの現場の近くじゃないじゃん、ってゆーか・・・・・誰だよ、その女・・・・・)
アニキの横に、見た事のない女の人、年の頃はアニキと同じくらいだろうか、が談笑しながら並んで歩いていた。
そういえば2、3日前に、今日出掛けるとは言ってたケド・・・・・。
「お客様?」
そんな混乱しているボクをかろうじて現実に引き戻したのは店員さんの声だった。