続・高崎竜彦の悩み 〜降り懸かる災厄〜-6
オーナーの記事と俺の記事を無断で差し替えなんてとんでもない真似をしでかした上に、謝罪の言葉の一つも吐かないたぁ……人をナメてるとしか思えん。
「紀美子、反省してますから……」
待山さんが、もじもじしている。
「だからあの、凄く厚かましいんですけど……もう一度、会ってあげて下さい」
あまり会いたくなかったんだが……惚れた弱みは恐ろしく、結局会う事になっちまった。
今度の待ち合わせ場所は、バー『樹里』。
俺と待山さんの、初デート場所……と言っていいのかな?
仕事上がりに樹里へ寄った俺はカウンターへ陣取り、フライドオニオンとチーズと生ハムのサラダをつまみながら、パナシェをぐいぐいやっていた。
尾山さんが他人の状態に気を配る程細かい気遣いをしない人だというのは前回気付いたため、腹塞ぎは必要だと判断した訳さ。
「マスター。パナシェお代わり」
うちの家系はビールベースのカクテル程度じゃびくともしない強靭な肝臓を子孫に授けてくれるため、俺はサラダを片付けてから二杯目を注文した。
すっかり顔馴染みになった壮年のマスターは、サラダの皿を片付けてからすぐに二杯目を作ってくれる。
しかし来ないな尾山さん。
もうちょっとお腹に入れとこうかな……あ。
来た!
「こ……こんばんは」
隣のスツールに腰掛けた尾山さんが、びくびくした口調で挨拶した。
この間思いっ切りキレた俺を見たせいか、だいぶ引いてるなぁ……ま、いいか。
「こんばんは」
尾山さんはマスターに、ワイン・クーラーを注文した。
「その、あの……」
ワイン・クーラーをがぶりとやってから、尾山さんは切り出す。
……アルコールの助けを借りないと、この人は謝罪もできないのか?
「佳奈子から、聞きました……怒った原因」
は、そりゃ結構。
いかん、すっかり辛辣になっとる。
「その……」
あ、イライラしてきた……。
「無断であんな事して、ごめんなさい……」
ようやく!
ようやく謝ったか……はっきり言って、遅過ぎるが。
「でもやったのは私の一存じゃなくて、編集長の判断も……!」
……おい、この期に及んで自己弁護の責任転嫁するつもりか?
「でも、それを言い出したのは君なんだろう?」
そう言った途端、きゃあきゃあ喋くってた尾山さんがぴたりと口を閉ざした。
「それによって俺達従業員がどれだけ迷惑をこうむったか……君、考えてなかったろ?」
パナシェで喉を潤し、俺は続ける。
「だからこそ、謝罪がここまで遅れたんじゃないかな?」
「……」
尾山さんが目で何かを訴えてるけど、無視。
そんな意志を汲む程、他人へ親切にしたい気分じゃない。
「今日のセッティングだって……俺、待山さんが説得しなけりゃ来る気はなかったしな」
で、俺は知らなかったから仕方ないっちゃあ仕方ないんだが……この一言、尾山さんにとっては地雷にも等しい事だったらしい。
「……んでっ!!」
いきなり尾山さんが叫んだため、店内は一瞬静寂に包まれた。
「何でみんなっ……みんな佳奈子の言う事には耳を貸すの!?」
……キレた。