12月10日-1
「君達のおかげでブラックボックスは手に入れる事は出来ました。あとは何としてでもロックを解除するだけ。」
「でも手間取ってるんですよね?展示会までに間に合うんですか?」
「こっちも必死でやってます。それと新たに、高嶋謙也が持つロード可能なパソコンの情報も入って来たので、それを探ってる所です。佐川明子さんは一緒ですか?」
「はい。替わりますか?」
「はい。お願いします。」
片山からの電話を、川口元治は佐川明子に渡す。
「佐川です。」
「佐川さん、今回は本当にありがとう。その身を犠牲にして大きな役割を担ってくれました。」
佐川明子は高嶋謙也の懐に入り込む為に不特定多数の市役所職員と寝た。そして全裸で駅前に貼り付けされると言う、まさに全てを犠牲にする事までした。そしてブラックボックスとともに高嶋謙也から管理を任されていたビッツコインまで奪った。佐川明子なしではブラックボックスの奪還はまずあり得ない事だった。
「いえ。それより何でしょうか?」
そんな事などまるで気にしていない様子で答える。
「高嶋謙也がゴールドのパソコンを持っている所を見た事はありますか?」
「ゴールドのパソコン…?」
明子は記憶を辿る。きっと重要…、いや、それがブラックボックスを開くに必要だとされるパソコンである事は察しがついた。これは重要な事だ。それこそ高嶋謙也と接触してから今までの記憶を一つ一つ思い出すかのように真剣に記憶を辿る。
「いや、記憶にはありません。」
片山は少し落胆したかのように答える。
「そうですか。分かりました。」
「すみません。」
「いやいや、謝る事はありません。佐川さんは本当に大きな貢献をしてくれた方ですから。」
「ありがとうございます。」
「では川口君に替わってください。」
再び川口と片山が話す。
「きっと高嶋謙也も佐川さんに裏切られた事に気付くでしょう。あなた達3人は暫く身を隠していた方がいいでしょう。明日人を寄越します。ある場所にあなた達の当面の生活場所を確保してあります。そこで身の安全を確保していて下さい。」
「でもまだ計画は…」
「あなた達は高嶋謙也から狙われる立場にあります。身の安全を確保し姿を隠すのも公安の大事な仕事です。ここは指示に従って下さい。」
「分かりした。」
「あとあなたの会社は公安の人間を潜らせて守ってますので安心して下さい。」
「ありがとうございます。」
「ではお気をつけて。」
「はい。」
元治は電話を切った。
「もう少し…、もう少しであの忌々しい男を抹殺できるんだ…」
片山に今は何もするなと言われたが、計画を成功させる為に片山の指示には従わなければならない。それがもどかしく感じていた。