自分の正体-7
お互い視線を一瞬たりとも外さなかった。これまで広徳に全てを明かして来なかった美琴と、自分の正体を自らの手で調べた広徳。だがそこには怒りの感情は全く存在しなかった。むしろようやくお互いに心を開けられたような安堵感を感じた。
「俺は片山さんに他人ではない何かを感じてたんだ。母さんと同じ。俺を包み込むような大きな愛を。片山さんから感じる愛は母さんと同じものだった。俺は感覚的に、もしかしたら片山さんと母さんは血が繋がっているんじゃないかって思うようになった。何の確証も証拠もないけど、俺と片山さんと母さんは同じ血で繋がってる…、そう感じてた。ただ片山さんにはそれを言ってない。ただ片山さんが父さんの悪事を暴き裁きを下そうとしている事から、母さんもきっと何かの役割を担っているのではないかって思ってた。きっと母さんは父さんの悪事の証拠を確実に掴む為、人生を投げ売って父さんと結婚したんだね?片山さんが掴んでた証拠の中に家族にしか分からないようなものもあった。どうやってその証拠を手にしたのか不思議だったけど、母さんからの情報なら腑に落ちる。それを最近気づいてから、母さんは高嶋美琴であり高嶋美琴ではないんじゃないかって思うようになったんだ。」
「…。私は高嶋謙也の妻になる為に戸籍から何から改竄した。父さんの力で、ね。私は全く新しい人間になった。全ては長山家の因縁、高嶋謙也に裁きを下す為に。架空の家族…、架空の父、架空の母、架空の兄弟、架空の親族。私はその架空の家族に祝福されて高嶋謙也と結婚式を行った。架空の人生が始まったの。」
「そこまでして高嶋謙也に取り入ろうとすると言うことは、それだけ長山一族にとって大きな復讐と言う事だよね?警視庁総監就任を目前に汚い手でその座を奪い取った木田康介と、その意思を継ぐ高嶋謙也。長山晋の死は不自然な点がある。きっと木田康介と高嶋謙也が何かを仕組んだ結果だろうね。俺はまだそこに辿り着けてないけど、きっと片山さんと母さんはそれを掴んでるから人生を賭けて長山晋の無念を晴らそうとしてるんだろうね。俺は高嶋謙也の血を引きながらも長山一族の血も受け継いでる。善悪混合した血だ。でもね、俺の体には、俺は母さんの血しか流れてないと思ってる。俺は何があっても母さんの味方だよ?何があっても。それだけは分かって欲しい。」
「広徳…」
美琴の目から一筋の涙が溢れた。