自分の正体-6
「母さん、俺が片山さんに近づき警察の仕事に関わる事に反対したよね?片山さんと出会ったのは偶然だと思ってた。でも違った。必然だったんだ。きっと母さんも予感はしていたんでしょ?俺が片山さんに引き寄せられる事を…。」
広徳と合った視線が外せない美琴は少しの沈黙の後、重そうに口を開いた。
「私は…、…、正直に言う…。あなたが産まれるまで、好きでもない相手との子を愛せるのか、自信がなかった。産んでいいのかどうか、物凄く悩んだ。そしてもし産まれたら、あなたに色んな物を背負わせる事になるのは間違いなかった。何の責任もないあなたにそんな人生を歩ませる事になると思うと嬉しくない出産になる、そう思ってた。でも私は人生を捨てる覚悟を持って父さんに近づき、そして結婚までした。後戻りは出来なかった。あなたも産むしかなかった。出産直前まであなたを産む事を戸惑っていた。痛かった。体じゃなく心が…。高嶋謙也の子を産む…、その子の事を愛する自信がない。何の罪もないあなたを愛せないまま育てなくてはならない…、私は未来が見えなかった…」
瞬きもせずジッと広徳を見つめる美琴に、広徳も瞬きせずに見つめ返していた。
「でもね、あなたが産まれて、その姿を見て、そしてこの腕に抱いた瞬間、そんな不安は全て吹き飛んだ。私の腕の中で人生を始めたあなたを愛せる自信しかなかった。もう愛しくて愛しくて仕方がなかった。私は決めたの。私の定めには関わらせず幸せな人生を歩ませてあげようって。だから…とう…、いえ…片山さんには私達の運命に広徳を関わらせないでとお願いした。この子は私が幸せにする、普通の人生を歩ませたいって。片山さんもそれを了承してくれた。あなたには近づかないと。だからあなたから片山さんに接触して来たと聞いた時は驚いた。すぐに片山さんに釘を刺した。突っぱねてと。でもあなたは引かなかった。あなたは家族としてとして高嶋謙也を近くで見て来て、彼の全てを見て来てきっと嫌悪感を積もらせていたんでしょうね。父さんをこのまま好き勝手に野放しにしたくないと片山さんに言ったそうね。私はそれが心配であると同時に嬉しさも感じてしまったの。あなたは善悪が分かる人間で長山の血を引いてるって。きっとこれも避けられない運命…、私は片山さんにあなたを任せる事にした。片山さんならあなたを守ってくれる…そう思ったから。」
広徳は美琴の言葉に補足を加えた。
「娘の頼み事だ…、父なら娘の子供をちゃんと守ってくれるだろう、と。」
美琴の目は一瞬動揺した。そしてジッと美琴の目を見つめながら広徳は言った。
「母さんは片山さんの娘、だよね?」
その言葉に美琴はゆっくりと頷き答える。
「…そう、よ…」
と。