自分の正体-5
今日は深刻な話をする為に来た。広徳は今日ずっと気持ちを張り詰めていたが、小さな頃から変わらぬ母の姿にいつの間にか緊張は解れ、リラックスして母との夕食の時間を過ごした。
「でもホント、太らなくて良かったよ。広徳、何にでもマヨネーズかけるから。特に唐揚げは。」
「だってマヨネーズ、最強じゃん。でも良く怒られたよね。かけすぎだって。」
「で、取り上げるとスネちゃってねー。」
「そりゃあスネんだろ?マヨラーからマヨネーズ取り上げられたらさー。」
「何だか分からないけど。ンフッ」
目の前で唐揚げにマヨネーズをどっぷりとディップする広徳を見ながら呆れるように笑う。
(あなたは何があっても私の大切な息子。何があっても…)
美琴は広徳を見てそう思った。
慣れ親しんだ親子の夕食の時間は終わり、いいと断る美琴をソファに追いやって食器を洗う広徳。その後ろ姿に美琴は小さな頃もこうして家事を助けてくれてた事を思い出し感慨にふける。食器を洗い終え広徳は美琴の隣に座る。それまでのほっこりした気持ちが急に消え、美琴は緊張にも似た強張りを感じた。
「は、ハーフちゃんと間違ってキスとかしないでよね?」
緊張を隠そうとそう言った美琴に、広徳は固い表情を崩さなかった。その様子に美琴はとうとうこの時が来てしまった、そう覚悟する。
「母さん、今日は物凄く大事な事を話しに来た。」
息子のそんな顔に美琴はしっかりと応えなければならないと思い緒を締める。
「広徳…、いつかこんな日が来ることは覚悟してた…。あなたは優秀だから、きっと私の口から言わなくても、広徳からその事実を話されて、そして頷く私…、そんな時が、ね。」
「優秀って言うか、血筋だろ?警察官の。」
広徳のその一言で全てを知ってしまった事を感じた。
「そうね、血筋ね。」
美琴は目を合わせられなかった。
「あのね広徳…」
そう言いかけた瞬間、広徳は言いづらい話を母に言わせないよと言う優しさを持って美琴の言葉を遮る。
「俺は後悔してないよ?俺は今までの人生、何一つ後悔してない。父さんの息子になった事も全然後悔してない。何故なら近くで常に父さんの事を見て来れたからね。長山一族の因縁の敵、高嶋謙也を、ね。」
気づいてはいたがその最後のセリフに美琴は背筋を伸ばし広徳を見つめた。