自分の正体-4
側から見ると、2人はきっと恋人同志に見えるかも知れない。とても親子には見えないだろう。広徳は美琴の事を興味ありげに見つめて来る男達に圧のある視線を向ける。ただ、男達の気持ちは分からないでもない。確かに我が母ながらいい女である。
(母さん、恋人とかいないのかなー。)
結婚してると言っても、殆ど謙也は家にはいなかった。ほぼ母子家庭みたいな物だった。男を作ろうと思えば謙也の目を盗む事はさほど難しくはない。だがそれでも子供の頃から今まで、浮いた話は全く聞かなかったし、見た事もなかった。
車に乗り家に向かう途中、ふと聞いてみた。
「母さん、恋人とかいないの?」
美琴はフッと笑う。
「私、結婚してるのよ?恋人なんか作る訳ないじゃん。」
「でも父さんとは…どうなの?」
「どうなのも何も、夫ですからね。夫以外の人に心を奪われる母親とか、嫌でしょ?」
「うーん…まぁ。」
「私は仕事が楽しいしお店の経営で頭がいっぱいだから、そっちの方に手を回す余裕ないのよ。」
「そっか。」
そう答えながらも、女は30歳過ぎ辺りから性欲が増すと聞いた事がある。その真っ只中にセックスレスと言う事はやっぱオナニーすんのかな…、と考えてしまったが、さすがに母親にオナニーしてるの?とは聞けなかった。夫以外の男に気を持つ母親は嫌だが、オナニーする母親は別に嫌いじゃないな、などと馬鹿な事を考えているうちに自宅に着いた。
地域の中でも目立つ豪邸だ。無駄にセキュリティは厳重だ。少々面倒なセキュリティ解除を何度かした後に車を降り、玄関でまたセキュリティを解除してようやく家の中に入る。
「じゃあ唐揚げ作るからくつろいでてね?」
「あ、何か手伝う?」
「大丈夫よ。」
美琴はスーツのジャケットだけ脱ぎ、その上にエプロンを着る。昔からそうだ。帰ってすぐにお腹を空かせる広徳に早く夕飯を作ろうと急いでくれた。
「変わんないね、母さん。安心したよ。」
「なーに言ってんのよ、何十年ぶりに帰って来たんじゃないんだから。」
「そ、そうだね。何か今日は子供の頃に見た母さんと今の母さんを重ねて見ちゃうんだよね。」
「もー、変な子ねぇ。ハーフちゃんと結婚する気持ちでも固めたの?♪」
「ち、ちげーし!!」
「ンフっ♪」
そんな会話を夕飯の支度が終わるまで途切れる事なく交わしていた親子であった。