自分の正体-2
エレベーターに乗り5階の事務所内にある社長室に向かう。途中、何人もの社員やスタッフに声を掛けられた。中には子供の頃からの顔見知りもいる。広徳は会釈をし、笑みを見せながら社長室に招き入れられた。
「お疲れ様、広徳。」
美琴も笑みを見せるが、どことなく強張っているようにも見える。恐らくとうとうこの日が来たか、そんな心情なのだろう。何故広徳が急に会いたいと言って来たか、理由を感じている様子だった。
「美魔女の顔に皺が増えてないか心配になって、さ。」
悪戯っぽく言った。
「噂通り整形してるから、皺は消しておいたわ?」
こちらもニコッと笑う。そんな親子のやり取りを見て美香は微笑ましくなる。
「では私はこれで。」
「ありがとう美香ちゃん」
美香は広徳に小さく手を振って出て行った。
「どうしたの?高校の時美香ちゃんといい仲だったのを告白しに来たの?」
広徳は咳き込む。
「ち、違うわっ…!(やっぱ気づいてたのか。)」
美香について何も聞かれた事はなかった為、2人の関係は気付かれてないもんだと思っていたが、そうではなかったようだ。
「広徳、もう少しで仕事終わるから、家で話さない?」
急に神妙な顔つきになる。広徳が尋ねて来た理由に気付いているなら、確かに誰にも聞かれる心配のない自宅の方が都合がいい。
「だね、分かった。」
「じゃあ座ってて?」
「うん。」
広徳は来客用の長ソファに腰を降ろした。美琴はデスクにつきパソコンで仕事を始める。
(相変わらずカッコいいな。)
小さな頃から見て来た母の働く姿だ。皺とは言わないが年齢を重ねたはずだが年齢にしてはやはり若々しい。それこそ20歳代に見える。広徳にとって他人にそれを褒められるのは自分の事のように嬉しい事であった。
「何ぁに?ジッと見て。」
チラッと視線を向けられると動揺を露わにする。
「な、何でもないよ。」
ソワソワする息子にフフッと笑う。
「今度は真剣のようね?」
「えっ?何が?」
「やっぱハーフさんは綺麗よね。スタイルもいいし。」
「!?(マギーと付き合ってる事まで知ってんのかよ!)」
まさかマギーの事を知っているとは思わなかったが、美琴はそれ以上の事は聞かなかった。そんなパソコンを打つ母を見て広徳は思う。
(さすが鋭いってゆーか。血筋だろうな。)
広徳は美琴の本質に納得する。