自分の正体-14
「そもそも上原正芳は中東で頻発していた麻薬強奪テロに日本人が関わっているとの情報を得て現地に向かい潜入捜査をしていたの。でもその途中でそれがバレそうになり日本に戻って来た。そして間も無く部下の女性刑事を守る為に銃で撃たれて命を落とした…と言う事になってる。」
「確か喜多典明って言う男に撃たれたんだよね?」
「そうなってる。でも彼が撃ったタマは2発。どちらも急所を外れていた。けどその2発の銃弾とは違うタマが解剖の結果、上原正芳の体内から見つかってたの。上原正芳が庇った女刑事が高田道彦に撃ったタマも同じ。彼女の撃ったタマは高田の腕に当たってた。決して命を落とすような場所じゃない。でも彼の心臓からは銃弾が見つかった。そのタマは上原正芳の体内から見つかったタマと同じだった…。」
「えっ?て事は…第三者がいて、そいつが2人の命を奪ったって事?」
「そう。それを指示したのと中東での麻薬テロを起こしている人物が同じ…私達はそう見てるの。」
「まさか…そいつが…」
「…まだはっきりした名前はここでは言えない…」
だがそれが高嶋謙也である事は明らかだった。ただの汚職賄賂野郎だと思っていた父がとんでもない悪党だと言う可能性が出て来た事に広徳は何とも例えようがない恐怖を感じた。
「ただその情報のソースも、話がそうなのかも憶測の域を出てないのが現状。かなり可能性は高いとは言え明言は出来ないの。ブラックボックスがらみのこの案件は謎が多すぎて確実なものは何もない。だから正真正銘のブラックボックスの中身を見る必要があるのよ。」
「俺はそんなデカ過ぎる大義の為に動いてたのか…」
改めて自分がとんでもない事に足を突っ込んでいた事を思い知った。
「そして川口くん、佐川明子、小渕愛子以外にも、この事件にずっと前から潜入し探ってる公安がいる。その人も高嶋謙也チルドレンであり、高嶋謙也を憎んでいる。今後はその人とも連携して高嶋謙也を世間的に抹殺する事になると思う。」
「誰…なの?」
「まだ言えない。でもその内話すわ。」
「分かった…」
広徳がおとなしく引き下がったのは、必要以上に首を突っ込むのが怖くなったからかも知れない。
広徳は自分の正体を知った。母の正体も知った。そして知られざる事もたくさん知ってしまった。今まで探偵気取りでわくわくしながら片山を手伝っていたつもりだったが、急に警察が怖くなった。警察は正義なのか、それとも悪なのか、広徳は正直分からなくなって来た。
(でも真実を知りたい…)
自分に流れる長山一族の血を信じて広徳は前に進むつもりではあった。