自分の正体-12
「でもブラックボックスが入ったメモリーカード、川口さんが手に入れたんだよね?じゃあもうあとは父さんに突きつけるだけじゃん?」
「それがね、手には入れたんだけど、お父さん…、高嶋謙也がそのファイルを開くには専用のパソコンを使わなければ開けない設定をしたらしく、開けないの。今、横芝が秘密裏にメモリーカードを開くからくりを解析してそのパソコンと同じプログラムを作ってるとこだけど、困難を極めててね。だからそのプログラムを開くソフト開発と、高嶋謙也が持つその端末を奪い取る、二つの計画を立ててるとこなの。」
「父さんのパソコン…。あっ…」
広徳は何かを思い出した。
「そー言えばさー、何年前かなー、風邪で大学休んで家にいた時。家にベンツで来たスーツ姿の人が父さんを尋ねて来た時があったな…。何か厳重なアタッシュケース持って。父さんの部屋で2時間ぐらいいたかな?胸に横芝のバッジついてたから。俺、てっきり何かの裏金でも持って来たのかと思ったけど、彼らが帰る時、チラッと父さんの部屋見たら、ゴールドの金ピカなパソコンが見えたんだよね。派手なパソコンだなーって思ったけど、あれがそのパソコンなのかなって…」
「そ、それよ!そのパソコンよ!ねぇ、詳しく聞かせて!」
「い、いやごめん…。それ以外の事は…。見たのはその時一回だけだだし。」
一瞬身を乗り出した美琴だったが、他に情報がなさそうだと知りソファに腰を降ろした。
「ご、ごめん…何か…」
「いえ、大きな情報よ?パソコンは金色…、その情報すら私達は掴めていなかった。妻の私でさえその事実を知らなかった。ありがとう広徳!」
「い、いや…」
「ただし、広徳はパソコンを追わないで。私達が追うから。約束よ?」
「あ、ああ。分かった。」
そう言って一先ずは美琴を安心させるが、裏で広徳はそのパソコンの存在が気になって仕方がなかった。
「もうすぐ日本の家電メーカーが集う展示会が東京ビッグサイトで行われる。そこで横芝は全ての力を注ぎ込んだ革新的な商品を数多く発表して目立を圧倒する予定なの。目立はずっと横芝から才能を金で引き抜いて商品開発して来た企業。その汚いやり方に終止符を打つ展示会になる。そしてそこで高嶋謙也がしてきた悪行の全ても暴露する計画なの。その中でも1番大きな、そして高嶋謙也の悪行の原点、三億円強奪事件の真相…、その真実が必要なの。だから何が何でもブラックボックスを開かなくてはならないの。だから高嶋謙也のパソコンがどうしても欲しいの。だからみんなみんな必死になってる。」
そう話した美琴の顔は刑事そのものだった。