自分の正体-11
広徳の口の中の甘さが抜けて来た頃、広徳は美琴に聞いた。
「以前、上原若菜が見たと言うブラックボックスは、本物なん?」
すると美琴の表情が引き締まる。
「本物よ…。ある意味。」
「ある意味?」
「そう。ある意味。原本ではないけど、内容はほぼ同じ。でも私達の大義に影響がありそうな部分は抜けてる不完全な本物。」
「じゃあ本物は…、やはり川口元治さんが手に入れた…」
「そう。川口くんと言うか、佐川明子さんが手に入れたものが本物…のはず。」
「はず?」
「そう。ブラックボックスは代々の警視総監に引き継がれるもの。だから紙面なの。でも原総監の時にデジタル化されてメモリーカードで保管されるようになったの。だから以降杉山総監、上原総監は、父、片山副総監が管理してたファイルをプリントアウトして、それが本物のブラックボックスとして取り扱われてたの。それがサーガ事件の同時多発テロの桜田門崩壊でメモリーカードが紛失してしまった。いくら探しても出て来なかった。その後の調べで私達はそのブラックボックスを高嶋謙也が所持していると言う情報を得たの。その真偽を確かめるべく、私達は高嶋謙也を調べ始めた。ブラックボックスを取り戻す為に。」
「ん?ち、ちょっと待って…。もしかして川口元治も佐川明子も小渕愛子もみんな…」
「そう、公安よ…」
広徳は衝撃を受けた。その話は全く聞いていなかったからだ。
「じゃあ全裸張り付けとか、一連の事件は…」
「全ては高嶋謙也からブラックボックスを取り戻す為の計画よ?」
「マジか…」
広徳は言葉が出なかった。公安は任務の為なら自分の恥態が永遠にデシダルタトゥとしてこの世に晒されて続ける事になる事も惜しまないのか…、そう思った。
「俺は…川口さん佐川さん、小渕さん…そして俺…みんな父親が高嶋謙也である事は知ってた。彼らは自分の両親の人生を狂わせてしまったであろう高嶋謙也の資産を全て奪って、さらに保持しているであろう大量の麻薬を抑える為に動いてると聞いていた…。それも真実じゃなかったんだね。全てブラックボックスを取り戻す為だったんだ…」
「ごめんね?父も本当の警察官ではないあなたに真意は言えなかったのよ。」
「いや、それは当然だよ。片山さんは悪くない。そうか…父さんはブラックボックスをネタにして日本のトップ、総理大臣の座を射止めようとしてたのか。木田康介が長山晋からその座を奪い取ったように。」
「そう。だから私達はそれを阻止しようと人生をかけてるの。」
「…」
真実が見えて来た広徳は、今自分がしている事の深刻さを思い知るのであった。