ヘブンリーブルーの笑顔-1
宮古島を取り囲む海の美しさも、昼に食べたとうふチャンプルーのおいしさも、初めて訪れそしてそう遠くないうちになんらかの形で移住してくることになりそうな宮古島の素晴らしさを存分に教えてくれたのだけれど、それに匹敵する胸熱な状況に俺はオリオンの本数以上に酔っている。
さおりさんがすんごく肩に力を入れて運転するデイズ ―仕入れや日常の買い物用に中古で買ったそうだ。さおりさんにとっては大学生時代以来の運転らしい― で島を巡り、伊良部大橋を渡って下地島空港を見学し、本格的な宮古島観光は俺同様初めてのしのちゃんがハイテンションで遊んで食べてマカロニえんぴつを歌いまくって、そしていつものようにアルカリ電池が切れるように後部座席でことん、と眠ったのにつられて俺もしのちゃんと肩を寄せ合って眠っているうちにさおりさんの店に着き ―AT車なのにノッキングしたみたいなブレーキで目が覚めた、さおりさん意外と運動神経ないな― 、昨夜にも増して豪華なディナーの席にしのちゃんと並んで座った。そして、テーブルの正面には柚希ちゃんと真奈ちゃんがやっぱり並んで座っている。
柚希ちゃんは久しぶりに見る私服姿で、首元がざっくりと開いた白のブラウスにギャザースカート。さくら太平洋航空の制服ほどタイトではないけれどそのぶん胸元が若干無防備っぽく、フォークとか床に落とさないかなとつい期待してしまう。
そして、妹の真奈ちゃん。小学4年生としのちゃんよりも1学年上だけど、背丈はしのちゃんとだいたい同じで、でもマリンブルーのTシャツから伸びる日焼けした二の腕やカーキ色のハーフパンツの下の太腿や下腿部は、腕も足も付け根から先端まで太さがほぼ変わらないしのちゃんよりも、丸みというか肉付きが若干ふくよかで、そこがちょっとお姉さんっぽさを感じさせる。なんと言っても、Tシャツの胸をかすかに、本当にかすかに盛り上げてる、「ふくらみ」という変化が表れはじめた、おそらくは乳頭部分だけが突き出してるだけの、タナー1期の真奈ちゃんの胸。やべぇ、綾菜ちゃんとはまた違うタイプの南国っぽい人懐っこさと、さすが柚希ちゃんの妹というべきか既にほんのりと甘い体臭、そしてあはははー、と子供らしく笑うときに大きく開く口の、ちょっと叢生っぽい並びの歯。まだ息臭は確認できていないけれど、うん、真奈ちゃん、しのちゃんのお友達になってくれてありがとう。
しのちゃんが真奈ちゃんには、綾菜ちゃんに見せたようなジェラシーを露わにしないのは意外だった。デイズから降りてお店に入ったらちょうどやってきたところだった真奈ちゃんも、わー、お兄ちゃんだー、こんにちはー、と言いながら俺の腰にしがみついてきたけれど、横にいたしのちゃんはそれをにこにこ笑って見ていた。あれかな、仲の良いお友達だからなのかな、それともどうやらちょっと憧れてるっぽい柚希ちゃんの妹だからかな。いや、真奈ちゃんが綾菜ちゃんと違ってアプローチに性的な下心 ―綾菜ちゃんは別に俺自身に興味があったわけでなく単に自分の性欲を満たしてくれそうな成人男性だったら誰でもよかったんだろうけど。しかし小学6年生でそれはちょっと末恐ろしいな― がないから、しのちゃんの8歳ながら鋭い女のセンサーが反応しないんだろうな。
「はい、しのちゃんどうぞー」
「ありがとー」
大皿の島ダコの炒め物を大きなスプーンで掬った真奈ちゃんが、それを向かいの席のしのちゃんの取り皿へ分けてくれる。その様子を頬をほころばせて見ていた柚希ちゃんが、俺のほうを向いて言った。
「真奈、しのちゃんのお姉さんぶっているところがあるんです。ずっと、年の離れた妹だったので、こうして私の真似してお姉さんできるのが楽しいみたい」
そう言ってにこ、と笑う柚希ちゃんは、いつもの機内でのメイクと違って、すっぴんです、と言われても信じてしまいそうなほどのナチュラルメイクだった。俺的にはこういう柚希ちゃんのほうがかわいいと思っている。だから、テーブルの向かい側のふたりを見ながら飲むオリオンがいつもの何倍もうまい。
週末なのでお店は混んでいる。さおりさんと前のオーナーさん、それにオーナーさんのふだんは漁師さんをやっている息子さんとその奥さんとの四人で満席のお店を回している。すごく忙しそうで俺達のいるテーブルになかなか来れないでいるさおりさんだけれど、カウンターの向こうの厨房でいきいきと調理しているさおりさんの笑顔を見ていると、さおりさんも、俺が持ってきたミラモールで買ったお菓子を真奈ちゃんと分け合っているしのちゃんも、この島にやってきてほんとうによかったんだな、と感じる。
二人にとっての新しい、そして安住の土地になりそうな気がするこの島に、俺のための居場所はあるんだろうか。いや、居場所は見つけるもんじゃない、作るんだ。仕事に戻ったら人事異動、もう一度支店長にアタックしてみよう。それでだめなら。
「せんぱいは宮古島には引っ越してこないんですか?」