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こいびとは小学2年生
【ロリ 官能小説】

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ヘブンリーブルーの笑顔-2


 柚希ちゃんの声で我に返る。エアコンの風で軽くふわ、とそよぐ柚希ちゃんの髪。日焼けした笑顔とぽってりした唇。いや、そこじゃない、柚希ちゃん、俺の心の中が見えるのかまさか。

「あ、うん……」

 柚希ちゃんに話すべきか。異動を希望したことは社内では支店長しか知らない。琴美にも言っていないし、それ以外の社員にも伝えていない。
 けど。柚希ちゃんは、さくら太平洋航空の他の社員と違って、しのちゃんとさおりさんのことを知っている。いや、知っているどころか、二人にすごく良くしてくれて、妹の真奈ちゃんをしのちゃんの宮古島でのお友達第一号にしてくれたり、こうしてさおりさんのお店にも顔を出してくれている。それに、あの日、宮古島へ飛び立つしのちゃんたちを見送った日、L1ドアの前での俺としのちゃんを見て目を真っ赤にしていた柚希ちゃんなら、このことを話しても大丈夫なんじゃないか。もともと柚希ちゃんは、人の噂話をぺらぺらと喋るようなタイプじゃない。

「実は、ちょっと前に異動の希望を支店長に出したんだけど……」

 オリオンのグラスをテーブルにそっと置いた柚希ちゃんが、真剣な表情になって小さく頷く。

「うちの支店も人手が足りなくて、今は厳しいみたいなんだ」

「そうなんですか……」

 柚希ちゃんが、まるで自分がなにかを拒否されたかのような表情になる。

「せんぱい、しのちゃんのことをあんなにかわいがっているし、それに」

 斜め前の、ソーミンチャンプルーの中の苦手なニンジンを真奈ちゃんと押し付け合ってじゃれているしのちゃんを見て、柚希ちゃんが続ける。

「しのちゃんも、いっつもせんぱいに会いたがってます。せんぱいの支店までのフライトから帰ってくると『お兄ちゃん元気だった?』って毎回聞いてくるんですよ」

 あれ、でもこないだは聞かなかったな。そこだけひとりごとのように小さくなった柚希ちゃんの言葉に、ほんの少しだけオリオンの酔いが覚めた。もし、しのちゃんが俺のことを二度と受け入れてくれなかったら今俺はどうしていただろう、と一瞬思う。隣のしのちゃんは、ニンジンのかわりに真奈ちゃんの嫌いなピーマンをしぶしぶ、といった表情ではむはむと噛んでいる。しのちゃんもピーマンは苦手なのにな。引っ越す前に俺に自分から「ピーマンもちゃんとたべてお兄ちゃんをまってる」と宣言したこと守ってるんだ。一瞬冷めた胸が、ぽっ、と暖かくなる。

「下地島、宮古島支店と兼任になるみたいです。ディスパッチャ(航空運行管理者)だけは専任を置くみたいですけれども、足りない、って聞きました」

 軽く右の小指を下唇の左下に当てながら柚希ちゃんが言った。

「石垣か福岡から人が来るって話もあるみたいですけれども、一時的な応援だ、って」

 そう言った柚希ちゃんが、はっ、とした顔になって、琴美みたいに身体をぐいっ、とテーブルの上に乗り出す。

「せんぱい、ディスパッチャ資格取ったらいいじゃないですか」

 十五センチくらい近づいてきた柚希ちゃんの口元から漏れる、オリオンとミミガージャーキーと宮古おでんだしと、そしていつもの柚希ちゃんの息臭とが混じった匂い。やや大きめの前歯とふくよかな唇とその唇と同色の歯茎。そこにどうしても集中してしまう俺の感覚機能は、柚希ちゃんの真剣な眼差しによってよこしまな感情へのアクセスが遮断されている。

「え、でもあれって……」

「ディスパッチャの見習いを二年くらい経験して、それから国家資格取得ですよね。大丈夫ですよせんぱいなら」

 柚希ちゃんの瞳が輝く。

「あ、え、ああ……」

「資格取っちゃったら、ずっと宮古島いられるじゃないですか、下地島もあるし。そしたら、せんぱいはさおりさんとしのちゃんとずっと一緒に過ごせる。わ、ぜったいそうしたほうがいいですよ」

 ねー真奈。そう言って柚希ちゃんが真奈ちゃんの頬をちょん、とつつく。ポーク玉子を頬ばっていた真奈ちゃんがおどけた顔で柚希ちゃんのおっぱいを左手でつねろうとする。ああ、真奈ちゃんの左手になりたい。

「私、応援します。せんぱい、ぜったいに宮古島支店に来てください。そして、ディスパッチャになって、私たちのフライトを支えてくださいね」

 柚希ちゃんがにっこりと笑ってオリオンのグラスを差し出す。そのグラスに自分のグラスを当てて乾杯した俺は、柚希ちゃんにそう言ってもらえた嬉しさと、それなりの試練を柚希ちゃんから与えられたプレッシャーとが入り混じった、どこかでなにかのモードが切り替わったような不思議な感覚に包まれ、ラフテーを俺に食べさせようとしたしのちゃんが脇腹をつんつんしてその光景を見た柚希ちゃんと真奈ちゃんの笑い声が耳に届くまで軽くぼうっとしていた。



 さおりさんと前のオーナーさんに見送られて俺達は店を出た。ここから歩いて十五分くらいのところに柚希ちゃんたちの家がある。俺としのちゃんとで、二人を送っていくことになった。
 五歩くらい前を手を繋いではしゃぎながら歩いていくしのちゃんと真奈ちゃんの後ろを、俺と柚希ちゃんが並んで歩く。

「しのちゃんが、せんぱいと結婚する、って言ってました」

 左側を歩く柚希ちゃんが歌うように言った。ぎく。


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