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青の家
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青の家~後編~-1

部屋の外はまるで、ホテルのようだった。通路が一本真っすぐに延びていて、その両側の壁にはグレーの扉が付いていた。扉と扉の間には柔らかなオレンジ色の光を放つ壁掛ランプ。赤い絨毯に白い壁は、まさしく『ホテル』。『家』なんてものではないし、『青の家』と謡われる由来の『青』が今のところ何一つ無い。そしてもう一つ…『窓』もない。先程、部屋で感じた違和感。それは窓が無いことだった。
しかし、マリアはそんなことを気にする様子もなくフラフラと、ミス・ケリーについて歩くだけだった。
突き当たりには階段があり、それを登っていく。すると小さな踊り場があり、紅色で金色の細工がされた大きな扉が聳えていた。
「この向こうのたくさんの人たちが、あなたを待っています」
ミス・ケリーの言葉でマリアの目に、生気が少し甦る。
「…待ってる?」
マリアが静かに繰り返すと、ミス・ケリーは無言で一つ頷き、その扉を両手で押した。
両開きの扉は、音も立てず簡単に開いた。
「………!!」
マリアは扉の向こうを見て、目を丸くした。先程まで多少は取り戻したものの、生きる気力を無くしたかのようなマリアが、だ。


――世界。


と言っても過言ではない。そこにはたくさんの人間。たくさんの『色』。たくさんの『人種』。
「小さい…世界…」
マリアは呟いた。50人ぐらいだろうか。比較的若い人間ばかりだった。
「小さい世界…そうかもしれませんね」
背の高いミス・ケリーがマリアを見下ろしていた。しかし、いつもの冷静な目ではなく、どこか悲しみを帯びている。
「これは…どういうことなの…?」
部屋を見渡しながらマリアは独り言のように聞く。そして、マリアを見つめる百もの瞳と視線を交わしていった。
「僕らは集められたんだ」
男の子の声がした。
そちらに目をやると、赤い緋色の髪に鮮やかな茶色の瞳を持った少年が、人々の中から出てきた。堀の深い顔立ちから明らかに日本人でないのは分かる。
「僕の名前は礼=クラーク。アメリカ人と日本人のハーフだよ」
礼という少年は続けた。
「小さな頃からここにいるから、両親の顔は知らないけどね。ね?ミス・ケリー」
マリアがミス・ケリーを見上げると「そうです」と小さく頷き
「そろそろ、全て話さないといけませんね。マリアさん、ついてきてください」
と、歩き出した。
「あっ、待って…」
「僕も」
この部屋に付いている唯一の小さなドアのノブを回す。ヒュンと一瞬、ドアの隙間から入ってきた風がマリアの前髪を持ち上げた。
「さあ、外へ…」
マリアは促されるままに外へ出た。
「何これ…。ここ、どこなの?」
これが外に出たマリアの第一声だった。
マリアの目の前には何も無かった。あるのは乾いた赤土と、ヒョウッと耳元で唸る乾いた風。
寒くもなく熱くもなく。頭上には、この光景には似付かわしくない青空が広がっていた。
「ここは日本です。しかも、あなたの街…」
左からケリーの声がした。が、マリアにはその言葉が理解出来なかった。
「…え!?あたしの街にはこんな場所…無いよ…」
「この間までは、ね」
ミス・ケリーの声は妙に暗かった。
「マリアさん、あなた、どれだけ眠っていたか分かりますか?」
ミス・ケリーの唐突な質問にマリアは面食らってしまった。


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