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青の家
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青の家~前編~-3

だから、マリアは自分がここに連れて来られ困惑しているのだ。そんなマリアに女は呟いた。
「実際…あなたはここにいます」
「あたしはそんな人間じゃない!帰してよっ!」
マリアは大声で叫んだ。あの寂しさ、孤独さ、辛さにはもう耐えられない。独りぼっちにはなりたくない。そんな思いから、マリアの声はどんどん大きく、荒くなっていった。
「帰りたいっ!!皆に会いたいっ!!あたしを帰してっ、皆に会わせてよぉっ!!」
どうやら涙は枯れていなかったようだ。知らない間にマリアは頬を濡らしていた。
人が変わったように荒れるマリアと対照的に、女は眉をしかめて感情のない声でマリアに言った。
「それは無理です」
マリアは頭を石で殴られたみたいに、目眩がした。
「そんな…」
「諦めて下さい。あなたはこれからずっとこの『青の家』で暮らして頂きます。生活に必要なものは全て揃っています」
そんな女の説明もマリアの耳には届いていない。いや、聞こえてはいるのだが脳が理解しようとしないのだ。まるでざるのように、聞こえてくる声は、耳に入っては流れていく。
「私の名前はケリー。ここの皆さんは私を『ミス・ケリー』と呼んでいます。ここでの生活で分からないことがあったら、何でも私に聞きなさい」
マリアはそんな声をぼんやりしながら聞いていた。
「…はぃ」
どんなにあがいても、もう戻れない。誰にも会うことは出来ない。独りぼっち…。
マリアはまるで脱け殻。マリアの口から出てきた言葉は呟くような返事だった。それを聞くとミス・ケリーは洗面所を指差した。
「分かったのなら、早く顔を洗いなさい。皆があなたを待っています」
マリアは渋々頷くと、覚束ない足取りで鏡の前に立った。改めて、自分の顔をまじまじと見る。
「ひどい顔…」
思わず口からそんな言葉が出てくる。
髪はボサボサ、目は真っ赤に充血し、その下にはクマが出来ている。顔が土気色をしていて、全体的に暗い印象を受ける。
自分とは信じたくない顔を消すように、マリアは冷たい水を一気に掛けた。


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