《魔王のウツワ・3》-3
「断っていいんだぞ」
「…あの…嫌じゃないんですけど…ただ…」
「ただ?」
姫野はおずおずと言った。
「…あの…鬱輪さんは…行かないんですか?」
俺か?
流石にこのバカと二人っきりと言うのは危ないと感じたのだろう。
「俺も行く」
「…あ、ありがとうございます…」
姫野はペコリと頭を下げた。フワリと黒髪が揺れた。
「…なんやかんやゆーてもヒメが気になるんやろ♪」
小声で七之丞が耳打ちした。
「…黙れ」
「お〜、怖ッ♪まあ、ええ。そうと決まれば今日の帰りなァ♪」
そう言うと、七之丞は食べ終わった弁当をさっさと片付け始めた。
「ほな♪」
台風の様なバカは自分の用事が終わると帰っていった。
「…ホントにいいのか?嫌だったらいいんだぞ、無理しなくても。姫野なら他の友達と行ったらどうだ?」
「…あの…私…まだ…クラスに馴染めなくて…友達もいなくて…」
姫野は伏し目がちに答えた。長い前髪と相俟って、姫野の顔は暗い影に覆われている様だった…
「…すまない」
「えっ…あ、その…そういう意味で言ったんじゃなくて…友達少ないから…私も…そういう所に行ってみたいと…思って…だから…よろしくお願いします…」
姫野に変な気を遣わせてしまったみたいだ。
※※※
「…またか」
放課後、学校から少し離れた公園で待ち合わせることになったのだが…
「…神足さん…また…加賀先生に捕まったんでしょうか?」
姫野はその腕にノワールを抱きながら言った。
話によると姫野の家はペット禁止&両親共働きの為、昼間は置いていけない。なので、夜は自分の部屋に匿って、昼間だけ学校で秘密裏に飼っているそうだ。
…それより、遅い。
どうして時間通りに来れないんだ、あのバカは…
「お〜い♪」
遠くからヒョロッとした男が手を振って、駆けてきた。
「いやぁ、悪いなァ♪今回は鬼瓦や」
鬼瓦…体育教師である勅使河原の渾名。暑苦しく、顔がゴツいのが渾名の由来だ。
「遅い」
「しゃーないやん、行こ思たら、あの暑苦しい顔が呼び止めるんやから。不可抗力やん」
「言い訳するな」
ぶつくさ言いながらも、ほんの十数分でカラオケ屋に到着した。