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青の家
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青の家~前編~-2

目を開けると真っ暗な闇だった。どうやらマリアはベッドの上にいるらしいが…。手元にふんわりとした感触を感じつつ、右手は宙を舞っていた。すぐ隣に、ヒンヤリとした固いものがあり、壁だと分かった。が、今のままでは何も見えず動くことが出来なかったので、マリアはその場で膝を抱え顔を埋めた。
きつく閉じた瞼の裏に、父と母の顔が鮮明に映し出される。続いて、明日会う約束をしていた彼氏。いつも一緒に居てくれる友達、厳しいけれど普段は優しい先輩、生徒に慕われている先生、苦楽を共にしてきた部活メイト…。どれも思い浮かぶのは、皆の笑顔だった。笑っている顔しか浮かばない。それが、あまりにも美しく輝いていたので、マリアは笑えずにいる自分が仲間外れに思えていた。
もう二度と、このたくさんの笑顔には会えない。
マリアは漠然とそんなことを考えた。
自分がいなくなっても、みんなはこんな感じで笑っているのだろうか。自分はここで独りぼっちで泣いているのに、それに気付いてくれる人はいるのだろうか。いや、たぶん、いないだろう。


―あたしは独りぼっち。


マリアには、この箱のような冷たい部屋は広すぎた。どうしても、孤独を強く感じてしまう。広い世界から一人だけ、隔離された感覚。これからどうなるのかという取り留めもない不安に、押し潰されそうになる。
マリアは冷たい壁に保たれ掛かり、膝を抱く腕に力を込めた。




何時間起っただろうか。マリアはカチャリという音で目が覚めた。頭を起こして目を凝らすと、数メートル先から一筋の光が入ってきた。
「電気付けてないんですか?」
聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、一瞬にして部屋が明るくなり、マリアは反射的に目を閉じる。
眩しい…。目の奥が痛い。暫くしてからゆっくり目を開けると、そこにはとても快適そうな部屋が広がっていた。ただ、妙な違和感を除けばの話だが…。
しかし、それすら忘れてしまう程、この部屋は素晴らしいものだった。
部屋の中心には少し大きいガラス張りのテーブルがあり、それを『コの字』で囲むように深いワインレッドのベロア生地のソファが置かれていた。床には隙間がないように、フワフワとしたマシュマロのような白いカーペットが敷かれていたし、冷たいコンクリート状の壁は以外にも優しいクリーム色だった。向かい側の壁にはクローゼットが備え付けられている。半分開いて中が見えるようになっていて、たくさんの新品の洋服が掛けられていた。
ふと自分がいるベッドを見る。それは、今までマリアが見たことのないような立派な洋風天蓋ベッドだった。ベッドは壁に沿って置かれていて、足元の方に扉を見つけたマリアは急いでベッドから降り、その扉を開けた。中はバスルームとトイレだった。洗面所として使えるようにか、大きな鏡も付いている。
「ここ…」
マリアは小さく呟いた。
「ここは、青の家です」
マリアの背後で、落ち着いた声がした。振り向くと、昨日の女がすぐ後ろに立っていた。昨日は暗くてよく見えなかったが、彼女の髪はキレイなブロンドで、肌は透き通るように白い。明らかに日本人の容姿ではなかった。女性にしては高い背丈と、黒いワンピースが凛とした美しさを漂わせていた。
「青の家って…まさか、本当に…!?あ、あたしは青の家に来るような人間じゃないっ…」
マリアの声は今だ小さいものの、はっきりと強く、力が籠もっていた。


青の家。この世の中には、青の家と呼ばれる家があるらしい。そこには将来を約束された優秀な人間が集まっているらしい。


そんな噂をマリアは小さい時から知っていた。マリアだけではない。知らない人の方が少ないのではと思うほど、有名でリアリティのある『噂』だった。


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