特進クラスの期末考査 『淫らな実験をレポートせよ』act.3-1
甘い空気、と言うものがこの世に在るのならば、きっと、今、この瞬間だろう。
ベッドに潜り込んで、今迄愛してくれた人と体温を分かち合う。
誰だってそう感じる、はず…
「鬱陶しい」
今し方、ベッドに潜り込んだ輩に冷や水ごときの言葉のナイフ。
「えーッ、酷いなぁ、えい君は」
えい君と呼ばれたのは、肩まで伸びた茶髪を揺らした細身で長身の男だ。
無造作に髪をかき上げ、起き上がってベッドに胡座をかく。チェストに置かれた煙草を手繰り寄せて咥えた。
「えい君、高校生なのにタバコは駄目だよっ」
「うっせー」
シュボッ…と火をつけて美味しそうに吸い込んだ。肺一杯に吸うと、さっきから小煩い女の顔を目掛けて煙を吹いた。
「…っげほっ、げほっ…酷いよ、えい君ッ」
涙目で非難を浴びせる女を尻目に、その男は冷たい声こう言った。
「帰れ。ウザイんだよ、お前」
女は流石に眉間に皺を寄せた様子で、服を掻き集めて出て行った。
ジュ……
煙草を揉み消す音だけが部屋に響いていた。
…ほんの五秒前までは
「きゃーっ、えい君こっわぁぁいっ」
「キモい、死ね」
可愛らしいハイトーンの正体は、今、女が出て行ったそのドアから入って来た。
亜麻色の髪は短く、背丈は低いがゴツゴツした骨格や涼しげな目許で男だと解る。
「可哀想に。あの人、泣いてたじゃん」
やはり男。通常の声は変声期を乗り越えた証である低音だ。
「可哀想で結構。覗いてた悪趣味なお前よりは上等だ」
ベッド下にあるデニムパンツをはき、ひょいっと立ち上がる。えい君こと、太刀川 英一(タチカワ エイイチ)は目の前の小柄な男に近寄った。
「俺ともキスすんの?その汚れた唇で、さ」
小柄な男は笑ってはいるが、目付きは睨む様にキツい。
言われた通り太刀川が手の甲で唇を拭うと、先程の女のルージュがべったりとくっついていた。
「…洋平」
困った顔で太刀川はその男の名前を呼んだ。小柄な男は今井 洋平(イマイ ヨウヘイ)と言う。
「英一こそ死ねば?」
今井は、それでも近付く太刀川を睨む。段々と二人の距離が縮む。