真実の唄-5
迷っていた。
ただ理想を作り上げていただけなのかもしれない…と。
しかしその一方では姉や荻本の言葉が私の背中を押していた。
窓を開け、秋風に吹かれる。空にはたくさんの星たちが小さくきらきらと輝いていた。
「あっ」
流れ星だった。
まるで『今だ!』と語りかけるように…。
とっさに鞄から紙を取り出し、電話を手にした。
当時は携帯電話もポケベルもなかったような時代だったので、直接家の電話にかけるしかなかった。
大きく深呼吸をし、一つ一つ確認するようにボタンを押していった。
プルルル―…
四コール目くらいだろうか。ガチャっと誰かが受話器をとった。
「はい、藤真です」
低めの落ち着いた男の人の声。
「あ、あの…藤真 大輝さんはいらっしゃいますか?」
「あぁ、俺ですけど」
驚きのあまり、思わず言葉を無くしてしまった。
蘇るあの夏の日。
フロントガラス越しの彼。
「もしもし?」
ハっと我に返り、慌てて言葉を並べた。
「あのっ…私、井浦 涼子といいます。荻本さんから番号を教えてもらいました」
「あぁ、荻本さんか」
手にじわりと汗が滲んでいるのが分かった。
「二年前の夏、大学の駐車場で祐一の車の助手席にいた者なんですけど…」
「……二年前?」
「はい。あの時からあなたのことが忘れられなくて………覚えていらっしゃいませんか?」
心臓の音が電話を伝って向こうにも聞こえるのではないかと思った。
手は微かに震えていた。