真実の唄-4
「へぇ、そんなに魅力的な人だったの?」
「…分からないけど、この人だ!って思った」
「名前も知らないの?」
「名前は…藤真 大輝」
すると荻本は目を丸くした。
「え、その人知ってるかも」
「えぇ!?」
荻本の話によると、掛け持ちしてる仕事先の常連さんに同姓同名の人がいるらしい。
「電話番号とか聞いてきてあげるよ!」
「えぇ!そんなの…それに二年前のことだし…覚えてるわけないよ」
そう、この空白の二年間。一方的に覚えているのは私だけ。
覚えているも何も、彼はあの時、車の中にいた私に気づいてもいなかったかもしれない。
「電話したらいいじゃない!せっかくのチャンスなんだし」
「でも〜」
「何うじうじ言ってるの!これを逃したらもう二度とないよ?」
当時すでに結婚していた姉のところへわざわざ相談に行ったのを今でも覚えている。
姉の入れてくれた紅茶を手に小さくなっていた。
「せっかくのチャンスをちゃんと掴まなくちゃ!二年経った今になって、また会えるなんて何かの縁じゃないかしら」
「うーん」
背中を押してくれる姉に私は渋った顔を向ける。
「あのね、足踏みしてたって何も変わらないの!一歩踏み出せば、景色って変わるものよ」
そんな姉の言葉があの時も、そして今も私を支えてる。
「涼子!藤真さんの番号教えてもらったよ」
「え!本当に聞いてきてくれたの?!」
手渡された小さな紙に書かれた大人っぽい字。
気分良くいろんなことを話してくれたらしく、大学は祐一と同じだったということが分かった。
間違いなく、正真正銘、二年前の彼。
私の忘れられない人。
「この人だ!って思ったんでしょ?」
「…うん」
「だったら頑張って!」
荻本は優しく微笑みながら私の肩を軽くたたいた。