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メダイユ国物語
【ファンタジー 官能小説】

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非情な実験-1

        1

(おかしい――)

 侍女のファニータは、翌朝になっても戻って来なかった。

 パウラに留守を任せて私室を出ると、マレーナはエレベーターの前で見張りに立つ兵士を問い詰めた。だが彼は「私は何も存じ上げておりません」と答えるのみで埒が明かなかい。フロア内で目に付くほかの兵士も同様だった。

(ファニータ、どこへ行ったの……)

 マレーナにとって十七歳のファニータは、歳が近いこともあり、三人の侍女たちの中でも特に仲の良い存在だった。姉のように慕っていたグレンナに続き、親友とも言えるファニータまでいなくなってしまったら――マレーナは気が気ではなかった。

 さらに丸一日が経過したが、ファニータは戻って来ない。業を煮やしたマレーナは見張りの兵士へ、オズベリヒに会わせるよう依頼した。話は彼に伝わったようだが、オズベリヒの方からは日時の指定がされた。二日後に会うことになった。マレーナは一刻も早くファニータの行方を彼に訊きたかったが、囚われている立場ではこちらの希望を無理強いするわけにもいかない。そもそもファニータの行方不明について、彼が無関係である可能性もゼロではない。今は従うしかなかった。

 オズベリヒとの会見の日が訪れた。その日の午後、迎えの従者がマレーナの私室にやってきた。王女は当然のように、侍女のパウラを連れて行こうとしたが、使いの者はそれを拒否した。

「オズベリヒ様からは、姫様おひとりをお連れするように言われています」

 彼はそう言った。
 何か理由があるのだろうか――マレーナは思ったが、今はすぐにでもオズベリヒに会い、ファニータのことを訊きたかった。背に腹は代えられない。

「分かりました。パウラ、あなたはここで待ってなさい」

 オズベリヒの使いに答えると、マレーナはパウラに留守を命じた。

「はい、マレーナ様……」

 不安そうな顔を向けながら、パウラは部屋を後にする王女を見送った。

        2

 使いの者の先導で、マレーナが連れて来られたのは、オズベリヒの私室――元々の応接室ではなく、医療施設として近年になってから城の敷地内に建てられた近代的な建物だった。

「こんなところで何をしているのです?」

 マレーナは従者に訊くが、彼も聞かされていないらしく、明確な答えは得られなかった。

「こちらでお待ちください。オズベリヒ様へお伝えいたします」

 建物内の一室に入ると、従者はそう言い残して部屋を出て行った。

 マレーナは周囲を見回す。この建物には何度か足を踏み入れたことがあったが、この部屋は見たことがない場所だった。細長いその部屋は狭く窮屈で、一方の壁一面にだけ窓が広がっている。その窓の向こうは比較的広い部屋になっていた。隣のその部屋には何に使うのかよく分からない精密機械が設置され、壁際の棚には実験器具や薬品の瓶などが多数収まっていた。その大きな部屋は照明が全て点灯されておらず、かなり薄暗かった。

 しばらく待っていると、背後の扉が開き、二人の従者を従えたオズベリヒがやってきた。

「お待たせいたしました。ようこそいらっしゃいました」

 うやうやしく頭を下げるオズベリヒは、これまでと違い白衣を身に着けている。一瞬、別人かとマレーナは思った。

「ここは何なのです? わたしはただお話を伺いたいだけです」

「申し訳ございません。手が離せませんので、こちらに来ていただくことになりました」

「ここで何をしているのですか?」

 怪訝な表情を向け、マレーナが訊くと、

「大事な実験です。姫君にもご覧いただこうと、準備していました」

 白衣姿のオズベリヒは答える。マレーナにとってはどうでもいい回答だった。

「実験? いえ、わたしはあなたに尋ねたいことがあるだけです。実は――」

 マレーナは苛立ちを抑えながら、問い掛けようとした。だが、彼はそれを遮るように言葉を重ねる。

「まあまあ。見ていただければ、姫君の知りたいことの答えが得られるかも知れませんよ?」

 オズベリヒはニヤニヤと薄笑いを浮かべる。

(何を言っているの? わたしが知りたいのはそんなことじゃない)

 そう言いかけるが、彼は更に続ける。

「ひとまず落ち着いて、こちらにお掛けください」

 言いながら、彼は傍らのベンチをマレーナに薦めた。

 これでは話が進まない。オズベリヒはどうしても見せたい物があるらしい。仕方がない、話はその実験とやらを見てからにしよう――マレーナは諦め、ベンチに腰を下ろした。

 その直後、オズベリヒが連れて来た従者のひとりが、突然マレーナの肩を両腕で押さえ付けた。

「な、何をするの? 離しなさい!」

 屈強の男に力任せに押さえ付けられ、身動きが出来ない。するともうひとりがマレーナの正面に屈み込み、服の下から取り出した手枷と足枷を手早く彼女の手足に装着した。室内にジャラジャラと鎖の音が響く。オズベリヒの従者は手足の枷と繋がった鎖の反対側を、壁に設置された金属製の手摺に繋いだ。マレーナは完全に自由を奪われた。

「どういうことです? すぐにこれを外しなさい!」

 ジャラジャラ音を立てながら、彼女は声を荒らげる。

「しばしのご辛抱を。今からご覧にいれる実験が終わりましたら、自由にして差し上げます」


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