非情な実験-5
その時隣の部屋では、侍女のことを見守っていた王女が両手で窓を叩きながら泣き叫んでいた。だが、オズベリヒの言うとおり、いくら窓を叩いても隣の部屋には伝わらなかった。
また、向こうの部屋の音声はマイクで拾われ、マレーナのいる部屋にもスピーカーで聞こえていたが、こちらの声は向こう側には届かない。今のマレーナはあまりにも無力だった。
「おい、薬を用意しろ」
オズベリヒは白衣姿のひとりに命じた。彼は「はっ」と頭を軽く下げ、その場を離れて部屋を出て行く。
「では準備に取り掛かります。お前は四つん這いになりなさい」
続けてファニータに指示を出すオズベリヒ。ベッドの上の彼女は恥ずかしさでいっぱいだったが、逆らうことは出来ない。素直に従い、両手と両膝を付いて指示通りの態勢を取った。
「頭は向こう側へ、こちらには下半身を向けるのです」
言われるままに、ファニータはベッドの上で180度向きを変える。オズベリヒの前に彼女の下半身が向けられた。検査衣がかろうじて尻を隠しているその下には、薄褐色の肌の健康的な太腿が伸びていた。
「お持ちいたしました」
そこへ、先ほど部屋を出て行った白衣姿の部下が、手に銀色の金属トレイを持ってやって来た。トレイの上には、半透明のプラスティック製の物体、もうひとつ小さなガラス製の瓶が載せられている。針の付かない注射器のようなプラスティック製の円筒形には、白い液体がいっぱいに詰められており、ガラス瓶の方は透明の液体が入っていた。
オズベリヒは注射器を手に取り、ファニータの検査衣の裾を捲り上げた。彼の目の前に、膝立ちをしたファニータの、何にも覆われていない薄褐色の二つの臀部と、その中央の縦割れたスジが現れた。オズベリヒはゴム手袋を嵌めた手を伸ばし、そのスジをゆっくり開く。サーモンピンクの陰唇が顔を出し、花びらが開くように左右に口を開けた。固く目を瞑り、屈辱に耐えるファニータ。
「お前は男と寝たことはありますか?」
オズベリヒはファニータに訊く。
「ご、ございません……」
彼女が答えると、オズベリヒは指先で秘部中央の、粘膜が集中した部分を何かを検めるかのように弄った。
「ふむ、生娘(きむすめ)に間違いないようですね」
室内の壁に顔を向け、その先にある鏡に向かってオズベリヒは言う。鏡の向こうからこちらを見ているであろう、侍女の主であるマレーナに向けての言葉だった。
「ファニータ……ごめんなさい」
隣室からマジックミラー越しにそれらを見ていたマレーナは、身動きが取れず何も出来ない自分自身に憤りを覚えていた。
「これからお前にある薬品を投与します。じっとしていなさい、いいですね?」
「――はい」
「お前の身体に害を為す毒薬などではありません。安心しなさい」
ベッドの上で向こう側を向き、恥ずかしさに顔を伏せているファニータのか細い返事を聞くと、オズベリヒは手にした注射器のシリンダー先端を彼女の臀部の谷間に差し入れた。シリンダー全体を動かし、ノズルが肛門を探り当てると、彼はそれをゆっくりと差し込んだ。
「ああっ!」
下半身に異物の侵入を感じたファニータは顔を上げて仰け反り、思わず声を上げた。
ノズルが全て肛門に埋まった手応えを感じたオズベリヒは、ピストンを押し込み、シリンダーの中身を彼女の直腸へ注ぎ入れた。排泄器官から、生温くドロドロとした液体が逆に流れ込んでくる不快感がファニータを襲う。
「この薬はお前の腸内から体内に吸収され、じきに効果を現すでしょう」
中身が空になったシリンダーを引き抜きながらオズベリヒは言う。ノズルを吐き出した肛門から、少量の白く濁った液体が溢れ出した。
「しばらくそのままにしていなさい。動くと薬が流れ出てしまいます」
ファニータは四つん這いになったまま無言で首を縦に振った。あまりの羞恥に、彼女は言葉も出せなくなっていた。
オズベリヒは注射器を白衣姿の部下が手にするトレイに戻し、続いてもう一つの小さなガラス瓶を手に取った。それは化粧品の、香水の瓶のように見えた。ガラス瓶の頭にはプラスティック製の蓋が付いており、その天辺はボタンになっている。彼はファニータの元へ近づき、瓶の頭部分を彼女に向けた。そしてボタンを押す。蓋側面から、中の液体が霧状になって噴出した。
「あっ……」
霧状の液体がファニータに降り注ぐ。オズベリヒは彼女の身体にまんべんなくそれを吹き掛けた。甘いような、酸っぱいような、微かな匂いが彼女の鼻孔を刺激した。
「あの、これは……」
ファニータはオズベリヒに顔を向けて訊く。
「安心しなさい。害はありません。これがお前の身を守ってくれるでしょう」
すると、オズベリヒの背後でグルルルという、獣の唸りが激しさを増した。
今まで檻の中で大人しかったドワモ・オーグが興奮していた。彼は檻の中で忙しなく動き回る。
「この匂いに反応したようですね。準備は整いました、始めましょう」
そう言うと、オズベリヒは小瓶を戻しながら室内の白衣姿たちに声を掛けた。白衣姿全員が部屋を出る。彼らと入れ替わる形で、二人の兵士姿の男が入って来た。それぞれ手には長銃を携えている。
「お前は身体を楽にしていなさい」
続けてファニータにそう言うと、彼は部屋を出る。彼女は四つん這いからベッドの上に座る格好に態勢を変えた。
しばらくすると、オズベリヒは隣の部屋へ戻って来た。マレーナは窓から隣の部屋を凝視している。侍女のことが心配でならなかった。
「さて姫君、一緒に実験を見届けることにしましょう」
オズベリヒは手にした物をテーブルに置きながらマレーナに言った。