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メダイユ国物語
【ファンタジー 官能小説】

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非情な実験-4

        3

「あ……ここは、ここはどこ?」

 実験が執り行われる隣の大きな部屋にベッドで運ばれたファニータは、周囲の物音でようやく目を覚ました。彼女の両手両足も、やはり鎖に繋がれた手枷と足枷で自由を奪われていた。その身体には、白い検査衣をまとっている。検査衣とは言っても、胴体の前後を一枚布がかろうじて隠しているのみである。前後の布の側面は縫合されていないため、身体の両側は健康的な薄い褐色の肌が露出している。胸元は乳房の膨らみが見え隠れし、そして腰の辺りには下着が確認できない。検査衣の下は全裸だった。

 自身の置かれた状況が未だ把握できていないファニータは周囲を見回す。病院の、手術室のような部屋だった。照明は全てが点灯されておらず、かなり薄暗い。数人の人の気配も感じる。だが、視界の範囲には誰も見えない。右手側奥の壁には、横長の大きな鏡が取り付けられている。本来ならそこには窓があった方がいいのではないか――彼女は違和感を覚えたが、こちらの室内を映しているそれは、間違いなく鏡だった。

 ――グルルル

 声が聞こえた。言葉にならない声――まるで獣の唸りのようなそれは、自分の足元の方から聞こえる。彼女は身体の両脇で左右それぞれの肘をベッドに押し付け、上半身を起こした。そして足元の先を見る。そこには大きな檻が置かれていた。その檻の中、鉄格子の奥に、何者かの光る眼があった。薄暗い檻の中で、黒く大きな固まりがモゾモゾと蠢(うごめ)いている。ファニータは背中に震えを感じた。彼女の直感が、それを『危険なモノ』として捉えていた。檻の左右には白衣を着た医者のような男が、それぞれひとりずつ立ってこちらを見ていた。

「お目覚めのようですね」

 ひとりの男が、背後から彼女の顔を覗き込む。白衣を来たオズベリヒである。

「申し訳ございません。しばらく眠ってもらっていました」

 彼は後手を組み、ファニータに声を掛けた。

「あ、あの……これはいったい……」

 彼女は怯えた表情で、震える声でオズベリヒに訊く。

「三日前からお前に手伝ってもらっていた仕事の仕上げです」

「手伝い? 仕事?」

 ファニータにはその言葉に思い当たることがなかった。

 彼女は三日前、処刑された国王と殺されたグレンナらの葬儀の帰り道、オズベリヒ配下の兵士に「手を貸して欲しい」と依頼された。同行していたパウラを先に帰し、彼女は兵士に同道する。ファニータが連れて来られたのは、この医療施設の一室だった。入院用の病室で、彼女はこの三日の間ごく普通の生活――朝起きて、三度の食事を与えられ、夜寝る――を送っただけだった。一日のうちに何度か、医者の姿をした男が部屋にやって来ては体温を測ったり、採血されるなど身体検査を受けることはあった。食事の際には何種類かの薬の服用を求められた。

(これがお手伝い?)

 重労働を課せられるのでは、と不安を覚えていた彼女にとっては、拍子抜けする依頼内容だった。

 ファニータは気付かなかった。この三日間が、オズベリヒの計画――人体実験――のための下準備であることに。彼女は被験者として、万全の体調管理をされていたのである。

「はい。あともうしばらく、お付き合いください」

「あの、私は何を……あれは何なのでしょう」

 足元の先にある檻を指差して尋ねた。そこからは、時おりグルルと獣が喉を鳴らすような呻き声が聞こえる。ファニータは不安で一杯だった。

「気になりますか? ではお見せいたしましょう」

 そう言いながら、オズベリヒは彼女の足元の先、その檻の方へ歩を進め「おい」と、傍らの白衣姿のひとりに声を掛けた。

 檻に照明が当てられ、その中でうずくまる『固まり』の正体が、ドワモ・オーグの若い雄の醜い姿が、ファニータの目に飛び込んだ。

「ひっ……」

 悲鳴を上げ、身体をすくませるファニータ。逃げ出したかったが、手足が鎖で繋がれているため自由が効かない。

「怖がることはありません。彼は大人しいですよ?」

 まるで泣く子供をあやすかのように、オズベリヒは言葉を掛けた。

「あ、あの……私は……何をすればいいのですか?」

 目に涙を浮かべながら、ファニータは恐る恐る彼に尋ねる。

「今からあの者と交わっていただきます」

「え? 交わる? 交わるって……」

 オズベリヒが何を言っているのか、彼女には理解出来なかった。

「お前の歳ならもう分かるでしょう。身体を交えるという意味です。性交(セックス)ですよ」

 彼は事務的な、感情のない口調で答える。

「え……?」

 ファニータの薄褐色の顔が、見る見るうちに青ざめる。

「お前は今からアレと交わって、アレの子を孕んでもらいます。それがお前の仕事です」

「イヤ……イヤです。そんなの絶対にイヤ」

 見開いた目をオズベリヒ向け、頭を左右に振るファニータ。するとオズベリヒは再び彼女の元へ近づき、

「私の命令に従わないと言うのであれば、お前の主がどうなっても知りませんよ」

 と耳元で囁いた。

「お前が自決した場合も同様です。マレーナ姫を処刑します」

「そ、そんな……」

 ファニータの口からガチガチと歯を鳴らす音が漏れた。

「どうしますか? それでも拒否しますか?」

「――いいえ……命令に従います」

 恐怖に怯える表情で、彼女は頷いた。

「ファニータやめて! わたしのことはいいから、断って!」


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