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メダイユ国物語
【ファンタジー 官能小説】

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非情な実験-11

「分かりました――彼女を、ファニータのことをお願いいたします」

 涙ながらに、マレーナは頭を下げて懇願した。

「承知いたしました、姫君」

 オズベリヒは彼女に最敬礼すると、再びマイクを取って隣室に声を掛けた。

「被験者をベッドに載せて部屋へ運べ。丁重にな」

 彼はマイクを置くと続けてマレーナに向かい

「では姫君もお部屋へお戻りください」

 と言いながら、懐から出した鍵で彼女の手足の枷を外した。マレーナはようやく自由を取り戻した。

 彼女は窓から隣室を見る。獣の雄を相手にし、相当な体力を使ったのだろう、いまだにぐったりとしたファニータ。部屋に戻って来た白衣姿二人は、彼女の身体を抱きかかえ、ベッドに寝かせた。

(ファニータ……可哀想に。あんなケダモノに無理やり……)

 目を伏せるマレーナ。涙が止まらなかった。

(せめて、この実験が失敗しますように。人間とあの獣との間になど、子供が出来ませんように)

 医療施設からの帰り道、兵士の同行で塔の私室へ向かうマレーナは、心の中で強く祈るばかりだった。

 だが彼女は知らなかった。今回の実験のさなか、排卵誘発剤の効果により、ファニータの卵巣は卵子を卵管に放出していた。

 通常の人間同士の性行為の場合、男性器からは一度の射精で四千万以上の精子が放出される。膣内に放出された精子は、ごく一部の元気な物だけが子宮頸管を通り子宮内へ入ることに成功する。その子宮内に入れた精子も、半数は卵子の無い側の卵管に行ってしまうため、最終的に卵子のある卵管に到達出来るのは数十から数百と言われている。受精とは、かなり確立の低い現象なのである。

 だが、ドワモ・オーグとの性行為はわけが違う。ファニータの子宮内で彼が直接放った大量の精液は、人間を遥かに上回る億単位の精子を有し、彼女の左右両方の卵管までも満たした。その片側で卵子を取り囲んだ無数の精子のひとつは、否応なしに卵子の細胞膜を突き進んで内部への侵入に成功していた。ファニータの胎内では今まさに、受精卵が目まぐるしい勢いで細胞分裂を繰り返しているのである。

        4

 その日の夕刻、王女マレーナの私室では、侍女パウラがひとり主の帰りを待っていた。

 家事をひと通り終えた彼女は、窓から外の景色を眺めながら物思いに耽る。陽がだいぶ傾いてきた。開いた窓から吹き込む風も、だいぶ涼しくなっていた。

(マレーナ様、ファニータ様のことはお分かりになったのでしょうか……)

 パウラもまた、先輩侍女であるファニータの行方が心配でならなかった。

 ――ドンドンドン

 扉をノックする音が聞こえた。重く頑丈な扉であるため、ノックの音も低くて鈍い。

(マレーナ様!)

 主が帰って来た――パウラは壁の姿見を覗き込み、前髪や給仕服の乱れを軽く整えてから扉へ向かった。

「はい。お待ちください」

 扉の向こうへ声を掛けながら、彼女は扉の把手を引いた。

「マレーナ様……」

 扉の向こうでは、てっきり王女が待っているものと思い込んでいた。だがそこに立っていたのはオズベリヒの部下、大柄な兵士だった。パウラの顔から笑顔が消え、彼女は思わず後ずさった。

「あの……何かご用でしょうか?」

 彼女はおどおどと言いながら、扉の陰に半身を隠した。

「マレーナ姫はご用件を終えられた。お前に迎えに来るようにと、言付かって来た」

 兵士は小さな侍女のため、身を低くして答えた。優しそうな表情だった。

「マレーナ様がですか?」

「そうだ。姫様の元へ案内するから、私について来なさい」

 彼は今までのような無表情で怖そうな人ではない。パウラはそう思った。

「分かりました。少々お待ちください。準備して参ります」

 ぺこりとお辞儀をすると、彼女は部屋へ引き返した。

「ええと、こういう時は何をお持ちすればいいんだっけ?」

 呟きながら部屋を見回すパウラ。化粧台で使う椅子の背もたれに掛けられたストールが目に入った。

(そうだ、日が沈んで涼しくなってきたから、これをお持ちしよう)

 彼女は化粧台へ駆け寄り、ストールを手に取る。丁寧に畳んで部屋の扉へ駆け戻った。

「お待たせいたしました」

「では、行こうか」

 言いながら兵士は背を向けた。

 パウラは扉を閉め、小走りで彼の後を追った。

〈つづく〉


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