作者あとがき-2-1
「托卵妻」ということが最近取り上げられている。
現代ビジネスに2話連続で取り上げられていたものがある。いずれも子持ちの妻側が浮気をし浮気相手の子どもを夫に育てさせるという意味で「托卵妻」ということになる。
その例として取り上げられている例を簡単に紹介すると、
一人は、一人娘を持つバリバリのキャリアウーマンだが、というよりそれゆえ家庭第一だけが取り柄の夫の能力に物足りなくなり、バリバリのキャリアの男(もちろん妻帯子持ち)と浮気に走り、夫と血液型が一致していることを言いことに優秀な遺伝子の子どもを設けたいがために浮気相手の種を意識的に妊娠する。もちろん、仕掛けを巧妙にして夫には自分の子どもと認識させ育てさせている。
もう一人は、二人の子どもを設けていた妻が、これまでしたことが無いような熱烈な恋に落ち(もちろん相手も妻帯子持ち)、なんと相手とも諮ったうえで二人の子供を持ちたいと妊娠する。これも夫の血液型と浮気相手の血液型が一致してDNA鑑定でもしないと夫にはわからないが、円満第一な夫は、見事騙されて自分の三人目の子どもと認識し子育てする。
まさに「托卵妻」である。
生物行動学者の竹内久美子さんは、動物においてメスがオスを選ぶものであること、メスは婚姻後、子どもを何人か産んだ後に、夫より優秀な遺伝子を持つ男の種で妊娠したがる傾向が顕著にあることを著書でさかんに言及している。これは、人間にも当然ある女性の行動様式であるとの考えにも言及している。それはより生命力ある形で自分の遺伝子を残したいという生物の本能に根差した合理的な戦略であるとも言っている。
たしかに遺伝子の立場で言うと合理的であると科学的には理解できるし、本能的にも自分の性欲を見つめ直してみるとなるほど納得できる気がし、やはり生物としての人間とはそういうものなのだろうと思わざるを得ない。
そういう意味で第一の「托卵妻」の例は優秀な男の種と自分の遺伝子を合体させ、この世を勝ち抜くより生命力ある子孫を残そうとする、まさに合理的戦略に基づいた行動だと理解できる。
あるいは第二の「托卵妻」の例も、夫以上に熱烈な恋をした相手との子供を産みたいというのも、恋がより優秀な遺伝子の掛け合わせを望む本能だとすれば、まさに同様に合理的戦略に基づいた行動だと理解できる。
そして両「托卵妻」とも、一旦できてしまった子供についてはより良い環境で育てる必要性から、離婚せず良き夫であり父である今の夫に子育てを指せるという、これも極めて合理的戦略に基づいた行動をとっている、ということは間違いないとも言えるほど見事である。
なるほど女とは実に見事な生き物ではないか。
このような生物としての女性の本能行動を人間に当てはめて考察してみるということは非常に興味深いと言えば興味深い。
本編「人妻奈岐」は、実はこういう女性の本能に関する考察もその中に込めてみたつもりである。ただ、モデルとなった奈岐自身は上記の例と違い、子持ちではなかったため、本編でははじめての妊娠、出産を浮気相手の亮とのものとの設定となったという事情がある。しかし、内容の考察においては十分に斟酌し、奈岐の中にある本能の叫びを嗅ぎ取ってストーリ展開したつもりである。
読者にはそのあたりの臭いも本編小説の背骨を成す髄液として味わっていただけたらよりエロスに深みを感じていただけるのではないかと愚考している。