《魔王のウツワ・2》-3
※※※
屋上へのドアを開けた。
ノワールと名付けられた黒猫が日向でうずくまっている。
「…大丈夫か?」
やはり何処か悪いのか?
だが、ノワールは俺の声を聞くと、耳をピンッと張り、身体を起こした。
「ナァ〜♪」
嬉しそうに一声鳴くと黒猫は目を細め、足に顔を擦りつけてきた。
「…どういうことだ?」
「…多分、鬱輪さんに懐いてしまったみたいで…
ご飯も私からじゃ嫌みたいなんです…」
相変わらず、ノワールは足にじゃれついてくる。
かなり懐かれてしまった様だ。
「まあ…いいか…」
動物は嫌いではない。むしろ好きなくらいだ。
地面を適当に払うと、胡座をかいて座った。
すると、黒猫ノワールは俺の組んだ足の上にちょこんと潜り込んだ。
「なっ…」
「ふふっ♪」
俺の少し慌てた様子を見て、女はクスッと笑った。
顔全体はよく分からなかったが、その口許に浮かぶ柔らかな笑みに俺は少しドキッとしてしまった…
「…あっ!す、すみません…」
俺の視線に気付くと、女は慌てて謝った。
「いや…別に…」
俺もつられて、視線を逸らす。
会話が続かない…
何とかせねば…
「なあ…名前」
「…えっ…」
「名前…何て言うんだ?」
数分後、ようやく見つけた打開策。
「ヒメノミオです…お姫様の『姫』に野原の『野』、それにさんずいに漢字のゼロで『澪』です…」
姫野澪。
それがこの女の名前らしい。
ご丁寧に漢字の説明までつけて、姫野は自己紹介した。
「姫野…今日は弁当はあるのか?」
「あ、はい…今日はちゃんと…」
姫野はそういうと傍らの鞄から、これまた華奢な身体に合った小さな楕円の弁当箱を取り出した。
「心配してくれてありがとうございます…」
やはり、慣れてないせいか、ありがとうと言われるとむず痒い…
「…食うか…」
「はい…」