多勢の視線-8
麗世は弘恵を完全に否定した。
あの堕ちた姿を目の当たりにして、心の底から軽蔑しているのだ。
そこには「私は違う」という信念が垣間見える。
こんな小さな少女にも《生き恥》という概念があり、女性として守らねばならぬ確固とした《自尊心》がその胸にはあると叫んだのだ。
「暴力には屈しない」
「親友のプライドを守る」
あまりにも高潔で、尻がむず痒くなる。
散々泣き叫んでおいて、今さら思い出したように気迫を滲ませてくるとは片腹痛い。
鈴木は人差し指をピンと伸ばし、麗世の胸の尖端に近づけた。
下唇をギュッと噛み締めた口元はとても凛々しいが、眉間に寄せてハの字に垂れた眉毛や引き攣った瞳はキンタマ≠ニ同じ哀れなものだ。
「ひッ…うぐ…ッ!しつこいのよ…ッ!!や、やめ…ッッ」
『「やめて」だあッ?テメェ俺を「許さない」って言っといてなに泣き言ほざいてんだあ!………クククッ……冗談だよお、ちょいとした戯れ≠チてヤツだぜ』
額の汗を吸った前髪はペタンと萎れ、端正な二重瞼は恐怖に引き攣って歪む。
可愛らしい鼻は氷柱のように鼻水を垂らし、唇は顔面麻痺に陥ったかのようにグニャリとひしゃげて曲がり、プルプルと震えた。
「ぐひッッ!?…ッい"…ッ!や"…ッッ」
抑えていた凶暴性をチラリと見せただけで、麗世は自分の意思を言葉で表すのに戸惑いを見せるようになった。
そこには言葉を使わずに《身体》の反応で意思を伝えてくるようないじらしさ≠ェ感じられる。
そう思えてしまうのは、人差し指の尖端と乳首の先っちょが正確に擦れると、強固な吊り拘束の最中でも麗世の背筋はギクッと軋んだからだ。
そして微かに上下に揺れる顰めっ面は脂汗を絞り出し、真っ白な前歯が噛み合わさると、それが擦れてギリギリと鳴った。
「や"ッ…が…ッ!!…ッぎぎッ!」
指先を曲げるたびに、触れている乳首からは強い反発を感じた。
その幼気な抵抗を感じながら指先をクルリと回すと、麗世は歯軋りしながらグンッと俯き、身体を捻るように揺すって鎖をカチカチと鳴らした。
『そんなにビビんなよお。皆んなれいタンの可愛い声を聞きたいんだぜえ?クククッ……もう怒鳴らねえからよお〜』
「ッッぎ…い"ッ!?」
鈴木は両手を麗世の胸から離さずにその場にしゃがみ、清純を保っている股間に向けて、これ見よがしに目を剥いた。
思春期の少女にとって、この《視姦》という責めは残酷なものであろう。
なんとなれば少女を嗜好する者が〈魅力〉と感じる幼体そのものが、彼女らにとっての《羞恥》なのだから。
「みッ…見な…ッ…ん"う"ッ!?……ッぐ!」
『下っ腹が力んでビックンビックン動いてるじゃねえか。なにか……《我慢》でもしてんのかあ?』
下腹部に散りばめられた汗の珠が、ツッ…と落ちては一つとなり、小刻みに震える肌の上を流れ落ちた。
それは太腿も同様で、パンティは触れずとも湿り気を感じさせるほど。
微かに透ける黒い茂みや、汗や体臭とは違う欲情を擽る刺激臭が胸を躍らせる。
(誰か…助けてッ!せ、先生…ッ!ま…ママッ!)
麗世の頭の中には、森口涼花の事件が思い浮かんでいた。
彼女も登校途中で失踪し、そして未だに見つかっていない。
こうやって暴力に曝されている最中、今の自分のように教師や母親に助けを求めていたのだろうか。
どこまで耐えて、どこまで希望を持ち、どこで諦めた≠フだろう……。
(誰か…ッッ)
ジッと見つめられる股間が、その恥ずかしさに赤面したのかポゥッ…と熱くなったのを麗世は感じた。
まだ形の定まらぬ乳房を揉みしだく掌は苛つくほどに優しく、その幼胸を弄ぶ指は乳輪を挟み込んだうえで乳首を扱き上げてくる。
自己嫌悪に陥るほどに、麗世の胸は敏感だった。
乳輪は桜色に染まっていき、乳首は恥知らずにも紅潮をみせる。
その尖端の硬化は眼下に突き出る男根と同じ《勃起》でしかなく、興奮とは無縁な麗世の心はキリキリと痛む。
『……ん〜?……クククッ…クッククク!』
「ッ……!!!」
相変わらず神経を逆撫でする笑い声が聞こえたと思うや、ぞろぞろとカメラマンはしゃがみ込み、麗世の下半身にレンズを合わせだした。
表情を捉えているのはたった一人だけになり、三人が前方の三方向から、そして一人は真後ろからローアングルで尻から股間へと合わせ始めた。
「い…イヤよ…ッ!?ちょっとなにッッ……あ"ぎぃ"い"ッ!!」
男は凝視をやめて背後に回り、やはりカメラを意識してか足を開いて立つと、ついに《覚醒》を見せた幼胸にしつこく触れてきた。
曲がった指が尖った乳房を優しく抱えてくると、その感触に肌がピリピリと騒いだ。
その優しさ≠ェ尖端に迫り、色付き始めた乳輪に触れると騒ぎは疼きに変わり、それが最も尖って赤く膨れた部位に触れると、疼きは電流へと変わって全身に放たれて身体を突き動かした。
「カメラッ…あ"ぅ"ッ!?あ、アッチ行ってよぉッ!!…ッひッ?
……とッ撮るのヤメてえぇぇッッッ!!!」
吊られた両手首と棒枷に繋がれた両脚首の位置は、完全に固定されている。
こんな逆Y字の姿勢で一番自由に動かせる部分は、その位置決めされた手足から最も離れた其処≠ナある。
其処とはつまり、麗世が懸命に隠そうと足掻いている《股間》の事だ……。