多勢の視線-3
……ダンスが得意なアイドルを真似て撮ったのが、この動画だった。
閲覧数も「good」を示すハートマークも、麗世の予想を超えて桁違いの伸びをみせていった。
この動画が呼び水となって他の動画も高評価に引き上げられ、気がつくと麗世の動画へのコメントは100を上回るのが当たり前になっていた……。
{読モじゃないなんてビックリです!}
{れいタンのダンスにいつも元気をもらってます}
{前よりステップのキレが増してますね!}
この男が口にしたような下品なコメントは、ただの一度だって来た事はない。
健全な動画に、なにか下心でもあるかのような思いを抱くのは、頭のオカシな犯罪者だから……。
そう麗世は強く信じた。
いや、信じたというより、自分自身に思い聞かせた。
『別に『悪い』なんて言ってねえぜ?なあ、俺らのお客様のうちの何人が松友麗世を知ってるか、ちょっと見せてやろうか』
高橋が速やかに部屋を出て行き、そしてノートパソコンを持ってきた。
その画面を突きつけられた麗世は狼狽に震え、下唇をギュッと噛み締めて悔しそうに落涙した……。
{あのれいタンをゲットしたとは朝から驚きです!いつも動画をチェックしてた娘なので、今から楽しみです!}
{ついにボクのDVDコレクションに松友麗世チャンが加わるとは。パンティか制服のどちらかを熱望します}
{reiyo.Mの動画投稿もコレで終わりですね。10代前半のフレッシュな身体、期待してます!}
画面いっぱいの顧客リストと共に、[reiyo.M]が拉致されて凌辱DVDが作られるのを歓迎するコメントが並んでいた。
麗世の動画を閲覧した全ての人が、ハートマークを着けてくれた人が、この犯罪を喜ぶ者達と同じだとは思えない。
だがそんなものは何の慰めにもならない。
20人や30人では収まらぬ人数の異常者が、作品の早期完成を願っているのだ。
『大人気じゃねえか、ああ?こんな売れっ子≠ェ痴漢に噛みつくとか危ねぇにも程があるぜ。そんな危なっかしい跳ね馬だから、俺らが大切に《保護》してやったんだ。最良の判断だろ、ん〜?』
「……イヤ…ッ!い…イヤだ…ッッ」
床一面に置かれたカメラに、数人の男共が構えているカメラ。
その一つ一つのレンズの向こうには、さっき見たリストを超える人数の《目》があるのだ。
……そういえば、さっき『拉致して直ぐに』と言っていた。
あの返信メールを送ったヤツらは、今まさに自分が性暴力に曝されていると知りつつ、完成を心待ちにしている事になる……。
「こ、こんなのオカシいって思わないの!?イヤなの怖いのッ!!だッ誰か助けて!お願いしますッッ!!」
この男共は玉置そらを凌辱した。
その前には森口涼花を姦し、そして井形弘恵の時の口ぶりでは、もっと多くの女性を餌食にしていたようだ。
犯罪を繰り返していれば、それだけ証拠や目撃情報なども積み重なるだろうし、逮捕されるリスクも上がっていく。
それなのに此処にいる連中は、それを止めようともしない。
そしてDVDを購入したヤツらも、パソコンに顧客リストとして記録されているのだから、その決定的な証拠からは逃れられない。
何故、罪の意識も逮捕される恐怖も感じないのか、麗世には理解が出来なかった。
いや、何もかもが理解不能で恐ろしかった……。
『クククッ!リアルタイム配信じゃねえから、今の訴えはDVD化されてからお客様の耳に届くコトになるぜ?まあ、届いたトコロで誰も《助ける》なんて選択しねえけどなあ』
「ッ…!!!……そ…んな…ッッ!?」
再び見せられたノートパソコンの画面には、次々と返信が更新されていた。
{どんなオマンコとアナルなんでしょう?DVDが届くまで、れいタンのエッチなダンスを観てシコって待ちます}
{ボクのれいタンを拉致るなんてヒドいじゃないですか!?もう許しません!思いっきりレイプしちゃってください!}
{ズタボロにされたれいタンを観た後に、元気だった頃のパンチラダンス観たら泣いちゃうかもね?感慨深い激シコを楽しめそうです)
現在進行形で犯罪が行われている事が、購入意欲を高めていると知って愕然とした。
そして気軽に始めた動画投稿だったが、その《危険性》を認識したのは今が初めてだった。