山田屋敷〜第二夜〜-1
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―――――目を覚ました源二郎がおもむろに躰を起こした時、障子の向こう側にはやや白みがかった明るさがあった。
そろそろ夜明けの到来を告げようとする薄明を目に焼き付けた時、源二郎は自分が寝間の中に一人きりであることに気づく。
「お江・・・・・・」
昨晩自分を“男”にした相手の名前を呟いてみると、改めて自分の躰の節々や肌のあちこちに遺る女の体温と肌の触感が生々しく蘇ってくる。
武芸や遠乗りとは違った独特の疲労感の中、源二郎は生欠伸をしながら姿なき女の気配を感じようとする。
だが暫しの沈黙の中でもそれらしい気配は周囲に感じられなかった。
「どこへ、行ったのか・・・・・」
傷を癒やしに訪れているのに、まともに湯治をすることなく、しかも源二郎を置き去りにして立ち去ることはなかろうと思い直す。
「うむ・・・・・」
何ともなしに呻きつつ、源二郎は両腕を掲げ大きく背伸びする。
昨晩は負傷してから湯殿、そして寝間へと場所を変えたことで新たな疲労を積み重ねてしまった。
湯船に浸かってゆっくりしたいという思いの反面、
お江の豊かな肉付きを更に味わいたいという“男の欲求”も源二郎の中に湧き始める。
そんな相反する思いを胸に腰を上げた源二郎は乱れた襦袢の襟元と裾を整えると、寝間を出て手拭い片手に湯殿へと向かう。
(もしや・・・・・・)
(お江は、先に湯船で待っていたりしてな・・・・・)
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