いつか大きな花に成れ-2
「それにしてもあんたの『スミレ』、随分と芽が伸びたわね。……って言うかぁ、それ本当に『スミレ』なの?」
優子はわたしの小さな鉢植えを手に取って、10センチ程に成長した花の苗を見詰めて、そんな事を言ってきます。
別にスミレじゃなくても良いんです。実際、この小さな植木鉢に蒔(ま)かれていた花の種が何だったのか、実はこれをくれた彼も知らなかったらしく、ただ勝手に私が『スミレでも咲くんじゃない』と言った事がきっかけで、それ以来スミレになっちゃったんです。
「あんたねぇ、そう言ういい加減な事ばっかり言ってると、その内、凶悪な食肉植物が生えて来て、あんたの脳天気な頭なんか齧(かじ)られちゃうんだからねっ」
そんな優子の嫌みはいつもの事です。
そう言う時は、笑って誤魔化すに限る。うんうん、それが一番。
「ところであんた今晩……暇よねぇ」
唐突に話題を変える優子です。
「じつはさぁ…… 今日ねぇ営業部の若い連中と飲みに行く約束してたんだけどさぁ。急にメンバー足りなくなっちゃたんだよね」
どうやら優子、今夜のコンパに出張るはずだった子のか代わりに、わたしを誘っているようです。当然そう言った、浮ついた話に疎い(うとい)わたしは「へっ?」と、呆けたりもしますが。
「ピンチヒッターお願い!」
優子はそんな事を言って、両手を合わせて私を拝み。
「どうしよっかなぁ〜……」
私はすこし意地悪して、その気が無い振りをしてみせます。
「あんた用事無いんでしょぉ、いいから付き合いなさいよ!」
そう言って彼女、また私の頭を抱え込んで、グリグリグリグリっ!
「痛い痛いっ! 解った解ったっ! 行く行く、行きますから! もう赦してっ!!」
結局こうなるのも、いつものことでした。
〜〜〜〜〜
「へえ〜…… 御崎さんって園芸に興味があるんだぁ」
「そ〜〜なのよぉ! こいつったら暇さえあれば植木鉢ばっか、眺めててさぁ〜〜。 ねえちょっとぉ聞いてるぅ〜〜、河合ちゃあ〜〜ん」
どうやら優子は少し飲み過ぎたようです。グニャグニャに成りながら、同席してくれた新人営業マンの『河合 和人(かわい かずと)』にぐだを巻きながら、有る事無い事、私の事をけなしてばっかり。
「いいえぇ……そんなぁ、園芸なんて本格的な物じゃないですからぁ」
わたしは少し恥ずかし気に、俯いて謙遜(けんそん)したりします。
営業部きっての若手イケメン新人でありながら、成績はトップクラスと、女子社員にもモテモテの河合さん、どうやら優子もそれに漏れなく、彼の事がお気に入りのようです。
生ビールの大ジョッキ片手に、彼の肩に腕を回して、説教じみた事を言いながら、……なんだかとっても嫌な上司と化して居たりして。
河合さんはそんな優子に抱きつかれながら、照れたように顔を引き攣らせ苦笑いすると、それでも場を盛り上げようと、いろいろ話をしてくれます。
「ところで御崎さんって、彼氏とか居るの」
「へっ!」
急にそんな事を言われて、わたしの顔も真っ赤です。そう言う話って、かなり苦手分野だったりして。
「いえ……その……あの…… 彼氏だなんて……居ませんので……」
「へぇ〜…… 御崎さんって結構可愛いって言うか、可憐って言うか…… 営業部の人達の中じゃ、人気高いんですけどねぇ」
「えっ……そうなんですか…… なっ、なんか恥ずかしいです」
「そうかなぁ。俺が開発課の人間だったら、即行で口説いてたと思うよ」
「!…………」