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いつか大きな花に成れ
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いつか大きな花に成れ-3

 男の人にそんな事を言われたのは初めてです。学生時代にも男性と付き合った事は無いし、唯一気兼ねなくお喋りできたと言えば、元上司で結婚と同時にオーストラリアに転勤になった、植木鉢の先輩だけです。
 そんな恋愛オンチなわたしです、こんな格好良い人を前にして、いったい何って言って返せば良いやら、言葉なんて出て来ません。
「くぅおら〜〜河合ぃ〜〜! 貴様なに婦女子を誑(たぶら)かそうとしているかぁ〜!」
「ちょっと江森さん! 飲み過ぎですよぉ。しっかりしてください!」
 実際、本気でその気が有るのか無いのか、河合さんはすでに酔っ払ってぐでんぐでんの優子に絡まれて、わたしの事を口説いてる暇など無くなったようです。
「駄目駄目ぇ〜! こいつにはちゃ〜〜んと片思いの彼氏がいるんだからぁ〜〜。 先月結婚しちゃったけどねぇ〜〜」
 しかも優子、既にイっちゃてるらしく、自分の行動も言動も制御出来ていない様子です。しかも言うに事欠いて、何を言い出すやらこの女はっ! 
「ちょっと優子っ! なに言ってんのよもーー! あんたこそ飲み過ぎでしょ! 今日は送って行かないからねっ!!」
「あぁ〜はいはい、解ってますよ〜〜だっ!」
 そう言ってる側から目を回したのやら、よろけてテーブルの上を薙倒す始末。
 優子に叩かれ、転がった生ビールが河合さんのズボンに掛かって、彼もびしょ濡れ。
「ったくも〜〜! 優子ったら何やってるのよも〜〜!!」
 わたしは慌てて河合さんのズボンをお絞りで拭きながら、
「すみません河合さん、優子ったらほんと、酔っ払うと訳わかんなくなっちゃって」
 と、焦りまくり。
「ああ〜〜いやいや…… そんなぁ気にしないで……」
 なにやら優子のお陰で、ほんわかムードも台無しです。河合さんも顔を引き攣らせながら苦笑いを浮かべるばかりで、どうやら引いてしまった様子でした。


 〜〜〜〜〜


 本当に昨夜は酷い眼に会いました。
 酔いつぶれた挙げ句、倒れ込んで動かなくなった優子の面倒は、やっぱりわたしが見る事になり。それでも河合さんは親切にもタクシーを呼んでくれて、優子を車の中へと押し込んでくれました。
「本当にすみません河合さん。あっほらっ! 優子も謝んなさいよっ!!」
「ふわらひれはらぁぁ〜〜〜」
 駄目です、優子は壊れてます。
「気にしないで御崎さん、ぼくも今日は楽しかったから。また誘ってもらえると嬉しいな。 ……今度は個人的に」
「へっ!?」
「さっきの話…… 俺、本気(マジ)だから」
「!…………」
 どうやら私も壊れていたみたいです。
 その後優子を彼女のマンションへと送り、わたしも自分の部屋へ帰った様ですが、記憶がありません。
 今日は朝から頭が ”ガンガン”してます。


”トントンッ”
 不意のノックにわたしは椅子に腰掛けたまま回転すると、オフィスの入り口の方を見やりました。
「おはよう」
 見ればスーツ姿の河合さんです。
 河合さんは開け放ってあった扉に寄りかかりながら、片手を小刻みに振り、笑顔を私に投げ掛けて来ます。
「おっおはようございます。昨日はどうもすみませんでした」
 そう言いながら立ち上がったわたし。昨日の優子の失態を考えるともう、口も利いてもらえないだろうなと思っていた河合さんが、こうして朝から私のところへやって来てくれて、なんだか嬉しいやら恥ずかしいやら。わたしも頭を下げながらのご挨拶です。何だか顔中が熱かったりもします。


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